太陽と月
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不思議な色をしたアブソルに息もままならないまま見とれていると、同じくぼんやりしていたアブソルが動いた。


そこからは一瞬。アブソルが距離をとって構えるまでの動作がスローモーションに見えて、やばいと察知した瞬間には何かが頬を掠めた。



『…っ、はず、れた…!?』

「え、……えっ?」



焦ったような、怯えたような声に、瞬きを溢す。誰、だろう。

そして心臓も徐々に治まって、我に返った途端に理解できないこの状況。掠めた頬を触るとぬるりと嫌な感触がした。ゆっくりとそれを目の前に持ってくるとそこには嫌いな血があった。

…血。頭で認識すると頬から痛みが今さら襲ってくる。ピリリッと鋭い、だけどそこまで痛くはない。

他人事のように今、状況を把握していると思う。でもどこかで溢れだしそうなこれは、感情はなんだろうか。もう一度、アブソルに目を向けると、だ。



『……クソ…っ!』

「アブ、ソル?」



敵意を剥き出しに、こちらを睨み付けてくるアブソル。警戒してて、こちらの行動を伺っている。いつもならこっちだって体勢をとることができるんだけども何故かそれをしようと思えなかった。

さっきはあんなにコラッタみたいなのから逃げ出したのに。今はどうだろう、足が地面に縫い付けられたみたいに動かない。多分、動きたくない。

こんな、こんなに不思議な気持ちになっていたのに。



「あの、アブソル。えっと、睨むのやめよう?」



どうにか言葉を出そうとした結果がこれだよ。あっ冷めた目で見られた気がする。色々今現実を見れたよ、でも頑張る。

そんなことを考えていると、小さな声が耳を掠めた。



『…何で、俺は人間の作ったボールに入ってるんだよ…っ』



弱々しく、悔しそうに。意味がわからないといったようなその声音は、確かに聞こえたんだ。



「…うん、何でかっていうのはよくわからない」

『壊せることはでき………、はぁ?』

「はい?」

『……今、意思の疎通ができたような…』



気のせいかと自己完結しかけるアブソル。いや待ってくれ、これは好機だと思うんだ。どうにか、どうにかしてこの状況をなんとかするんだ。



「で、出来てる、よ。気のせいじゃ、ない!」



シンッと辺りの音が一瞬消えた、と錯覚した。お互いの時間が止まったみたい。

でもその硬直はすぐにアブソルによって破られた。



『……何者だ』



増した警戒。よくよく考えたら怪しいのか。そうなのか。
ピリピリと肌を刺すような敵意に一歩だけ近づいた。アブソルの構えが変わる、攻撃の姿勢が伝わってくる。



「…陽佐だよ。なーんにも怪しくない、普通の人。」



両手をひらひらとさせて、にまっと笑って危害は加えないよアピール。さてこれで信じてもらえるかっていうと、まぁあんまり期待はしていないんだけど。

そこでふと、さっきまでのふわふわとした曖昧な感情は、鼓動は治まった。わからない内に、だけど。



『……怪しくなくても、俺は人間のことを信用したくねぇな』

「おっ、おう…。」



凄く空気読んでないのはわかってるけど言う。生きている内にそんな言葉を聞くとは思ってもみなかったよ…。そして誰も信用してくれとは、いや怪しくないことは信用してほしいか。

はぁ、と重々しいため息と共にアブソルは一気に畳み掛けた。



『とりあえず、俺はお前と向き合ってるのも嫌だ』

「すっごいはっきりしてるね!」

『そしてお前の手持ちになった記憶もない』

「そこはノーコメントで」

『だからボールを壊す』

「それは困る」



ボールを壊したらなに、野生になるのか。未だにアブソルがボールの中から出てきたことを信じられる気もしないしでもどこかそれに順応してる自分もいるしでちょっと意味がわからない。こんな返ししてるけど焦ってる。

一瞬ひんやりとした風がアブソルとの間をすり抜けて、この空気を表しているようだった。



『…困ることなんか、無いだろ』

「…あ、えと…ここの土地勘ない、から…案内してほしいんだけど…」



あれ、でもアブソルってホウエンだよね。ここ、どこだろう。空気が澄んでて、掴めない透明なそれ。不透明な肺に溜まるものとはまた違う。もう、吸ってるものから違う。けどどこだ。



『……カントー…の…、……マサラ、…知らねぇのか』

「えっ?」



途切れ途切れながらも知りたかったことを発したアブソルに思わず聞き返してしまった。二度は言わないとばかりに睨まれたけど、えっマサラってあの、真っ白マサラだよね。

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