太陽と月
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「ピチュー!でんじは!」

「ゴルバット!噛みつく!」

ピチューが放ったでんじはは、寸でのところで避けられ、ゴルバットが噛みつこうと、大口をあけて飛んできた。いや、近づいてきてくれた。
さぁ、ピチュー。その可愛さで惑わせて?


「天使のキッス!」

『テメッ……』

一瞬、ピチューが天使どころか覚えないはずのこわいかおをしてきた。けれどちゃんと指示には従ってくれて、大口をあけて迫るゴルバットの眉間らしき部分のところに飛び付き、技の効果なのだろうか、ハートマークを飛び散らせてキスをした。
見事に決まり、ピチューが着地するとゴルバットは混乱状態に陥っていた。

「くそっ!ゴルバットしっかりしろ!」

「ピチューいくよ!じゅうでん!」

今の内に、だ。ピチューは身体に電気を溜め込み始める。バチバチと電気の音が辺りに響き出す。
相手はゴルバットに指示を出したみたいだけど、混乱しているからか、上手く動けない。
さぁ、ピチューのじゅうでんも終わったみたいだ。頬袋から電気が漏れ出している。

「きめるよ!でんきショック!」

「動け!エアーカッター!」

一歩早かったのはピチューだ。溜め込んだ電気を吐き出すように、勢いよく電気ショックを放った。
今度は避けられることなく、見事に命中。だけど、命中する直前に放ったエアーカッターは混乱状態もあって軌道はずれたものの、ピチューに僅かながら当たってしまった。

「ピチュー!」

『っ……大丈夫だ!』

細かい切り傷がまたできてしまっていたものの、あんまりダメージは大きくないらしく、倒れることはなかった。
対して、ゴルバットはバチバチと感電していて、痙攣している。ピチューの勝ちだ。

「ちくしょう!どうなっていやがる!」

ゴルバットをボールに収めた男は、この事態に苛立ちを隠せていなかった。

「退け!次は俺がやる!」

男を押し退けてやってきた相手は、ゴーリキーを出してきた。まずい、アブソルだと相性が最悪だ。ピチューで応戦できるだろうか。ポッチャマはまだバトルをさせたことがないから、こんなぶっつけ本番みたいな場には出せない。
ぐるぐると、頭の中で情報が回る。回って、ショートしそうになる。
すると、未来がスッと静かに前に出た。

「未来……?」

「私は、貴女の味方です。そう言いました。それは、バトルの場でも同じなのです」

淡々と語る未来は、それでも擬人化を解くことをしない。どうして。それに、うちは未来に指示を出すことができない。どんなポケモンかもわからないのに。
全員が、未来に注目した。敵でさえも。未来の雰囲気にのまれている。ここが未来の独壇場。スポットライトは未来にだけ当たっている。

「……なんて、なんて醜悪なのでしょう。あの方にはとても見せられない」

ぽつり、未来が発した言葉は無感情で、だけど明らかに否定的なものだった。
未来の背中しか見えないからどんな表情なのかはわからない。首をゆっくりと横に振った未来は、ゆるやかな動作で相手に左手を伸ばした。

「ここから立ち去りなさい」

「っ!! てめぇらが消えるんだよ!! ゴーリキー! クロスチョップ!」

激昂した男は、男自身も殴りかかってきそうな勢いでゴーリキーに指示を出した。ゴーリキーはダンッと力強く床を蹴って未来に襲いかかった。
未来! と叫びだしそうになった瞬間。

「消えるのはどちらでしょうか」

相手に向かって伸ばしていた手が薄い黄色の光に包まれ、途端にゴーリキーの動きが、いや、敵の動き全てが止まってしまった。
ぴたりとかなしばりにあったように動けずに、だけど表情は強ばっている。あれほど声を荒げていたのに、一言も喋らない。瞬き、そして呼吸しか許されていないのだろうか。
ヒューヒューと不安になるような呼吸が聞こえてくる。

「さあ、去りなさい」

そして、未来が右手を伸ばすとガラスが激しく揺れはじめ、ゆで卵のようにヒビが容易く入っていく。
ぐっと強く右手を握った瞬間に、視界に入る全てのガラスが、盛大な音を立てて割れていった。
その音で我に返り、気づけば声を上げていた。

「未来!」

「どうかされましたか?」

「なにしてるの!?」

「……貴女には、少しでも美しくあってほしいのです」

未来がなにを言っているのかがわからなかった。
未来は一度も振り返ることはせず、そのまま左手で振り払う動作をすると、相手は全て割れたガラスの向こうへ落ちていってしまった。叫び声も上げられないままに。
その光景を、見ているしかなかった。

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