太陽と月
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きらきらと導くように輝く照明が、今この状況での希望の光だった。
アブソルの悪の波動が敵のポケモンを倒していく。時々ポッチャマがサポートに出てくれる。アブソルの負担が少し減って、楽になったのを感じる。
船長さんがくれた傷薬で、どうにかピチューを回復したい。だけど、いつ誰が来るかもわからない通路ではできなかった。さっきから感じていたけれど、段々と敵と会う頻度が上がっている気がする。
続く緊張感に、目眩がした。
「っ……」
『陽佐、大丈夫?』
「うん、大丈夫だよ」
心配するポッチャマに笑いかける。空元気なんて、そんなわけない。まだ、大丈夫。
もう何人と遭遇したのだろう。階段も上がって、ここは何階だ。遭遇する頻度が上がっているのなら、上の方が重要なんだろうか。
『ここを真っ直ぐ行くと医務室があるよ、そこで少し休もう』
「あぁ……ピチューの回復ができるね」
ポッチャマの言葉に安堵のため息が溢れる。走り出したいのを我慢して、そっと進む。ピチューの回復をして、少し休んだらまた進もう。
一歩一歩、進むたびに心臓ががんがんと早鐘を打つ。緊張が張りつめる。
『陽佐!』
「!」
『ここ、ここだよ』
集中しすぎて通りすぎようとしていたみたいだ。ポッチャマが肩を叩いて教えてくれた。
アブソルを見ると、いないと首を振っている。よかった、誰もいないみたいだ。
そっと音を立てないように、ドアを開ける。中は学校の保健室よりも少し狭い、どこか殺風景な部屋だった。消毒液の臭いが鼻にツンとくる。
入ってドアを閉めると、深いため息が出た。
「……よし」
でも自分の休憩よりも先に、ピチューの回復だった。ボールの中で休んでいるとはいえ、辛い状態だろう。
ボールから出すと、呼吸は落ち着いているけど、切り傷だらけのピチュー。
『……おー』
「ピチュー、ポッチャマの説明は後で。まずは回復しよう」
『いや、ボールの中から見てたし、状況もわかってる』
ピチューをベッドの上に乗せて、傷薬を取り出す。少しピチューの身体が強ばったけれど、今は仕方ない。
スプレーになっている傷薬を、ピチューの切り傷に吹き掛ける。
ピチューはボールの中から見ていたと言っているけど、ポッチャマには何も教えていなかったから、ピチューの傷をみて泣きそうになっていた。
『いっ……てぇ!しみる……』
「我慢してね、これからピチューの力が必要になるから」
『っっ……わかってるよ……』
しみるしみると言いながらも大人しく治療を受けてくれるピチュー。そんなピチューの姿を見て、アブソルは鼻で笑った。
『ふん、ざまぁねぇな』
『るっせ!これすごくしみるんだぞ!』
「ほら、もう少しで終わるから」
最後に細かい切り傷に吹きかけて、ピチューの尻尾がびびびっと震え上がった。そんな器用な震えかたできるのね。
終わり、と言うとピチューはやっと解放されたとばかりにベッドにころんと転がった。
『……もう怪我したくない……』
「いやー治ってよかったよ」
『陽佐……えっと……』
いつの間にかうちの足下にいたポッチャマは、ちらちらとピチューを見ている。ああ、説明がまだだった。
ポッチャマを抱き上げて、ピチューの前にもっていくと、ポッチャマの身体がかちこちになった。
「怖くないよーピチューだよー」
『ピチュー……? よ、よろしくね』
『あぁ、よろしくな』
小さな手でぺちぺちとポッチャマの手を叩くと、ポッチャマもぺちぺちと手を叩いた。かわいい。
『よし、治療も終わったし』
ピチューはポッチャマから離れると、ベッドから飛び降りたピチューは、アブソルの背中に飛び乗った。
『……あ?』
『行け、アブソル号ー』
『落ちろ』
バシバシとアブソルの背中を叩くピチュー。さっき鼻で笑われたことに対する仕返しだろうか。
間髪をいれずアブソルが背中をぶるぶるっと震わせると、ピチューは床にあえなく落ちてしまった。
「……ふふっ」
何だか、二人ともお互いがいて元気になったように思えて、嬉しくなった。ポッチャマも、その様子を見て笑っていた。
と、そこで何の予兆も気配もなく、ドアが開いた。
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