太陽と月
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部屋から出ようと思ったけど、よくよく考えたらポッチャマはどうしよう。船長さんになついているのは明らかだし、無理に連れていくこともない。逃がせばいいと言ったのはこっちだし。
ポッチャマに目を向けると、船長さんも気づいたのか、ポッチャマに話しかけた。

「……ポッチャマ、どうしたい?」

『……僕……』

船長さんを見上げながら視線をさ迷わせるポッチャマ。何を迷っているんだろうか。
すると、船長さんはなにかを察したようにポッチャマを優しく撫でる。

「ポッチャマ、もういいんだよ。この子はきっと君を大事にしてくれる」

『……うん』

「君は、"海の案内人"だ。この子の助けをしてほしい」

海の、案内人?
初めて聞くその言葉に首をかしげていると、ポッチャマはまた目にいっぱい涙をためて、だけども泣かないように堪えて、船長さんに抱きついた。

『……今まで、ありがとう』

「あぁ、ありがとう」

きっと、言葉はわかっていないのに、同じ事を返している。薄く、綺麗な光景。きっと、ポッチャマを宝石に磨きあげたのは船長さんなんだ。

「……さぁ、そろそろ行く時だ。なに、また会えるさ」

『……うん!』

お別れの挨拶は済んだようだ。ポッチャマはうちの方を向くと、清々しい笑顔で飛び付いてきた。

「そうだ、名前を聞いていなかったね」

「陽佐です」

「陽佐くん、……これから、ポッチャマをよろしく頼む」

船長さんに深く頭を下げられて、慌てて言葉を返す。

「そんな、こちらこそ……いいんでしょうか。ポッチャマは、船長さんにとてもなついていたのに……」

「……いいんだ。陽佐くん、このポッチャマが特別だと言ったね」

「はい」

さっきも言っていた、このポッチャマは特別な色違いだと。だけど、特別な色違いということにはなにか理由があるらしい。さっきも、海の案内人と言われていたし。

「……この子はね、海の案内人と言われる目を持っているんだ」

「海の、案内人……」

「そう、この子がいれば海で迷うことはないだろう。……だけど、悪人がトレーナーになるとたちまち牙を剥く」

その言葉に、びくりとポッチャマは体を震わせて、うちに強く抱きついた。
その様子はどこか怯えているように感じた。
悪人がトレーナーになると、牙を剥く。それについて聞きたかったけれど、ポッチャマがあんまりにも強く引っ付くから、聞いてはいけないことだと、口を閉じた。ポッチャマから話してくれるのを待とう。

「それ以外にもね、観賞としても高い評価がある。……さっきも言った通り、目が宝石と例えられる程ね」

「……」

「訳あって、ここの船にずっといたわけだが、こんなことがあってはもう乗せてもいられない。今回を乗り切ったとしても危険だ。……だから、君に、ポッチャマを守ってほしい」

勝手なお願いだとはわかっている。そう言った船長さんの表情は真剣そのものだった。守ってほしい、なんて言われたら。もう。

「何より、この子が君たちを案内しようと奮起してくれたことが嬉しかった。……君たちなら、任せられると思ったんだ」

「……わかりました」

頷くしかなかった。船長さんが大きな期待を向けているのを感じたけれど、それがなんでなのかはまだわからない。それでも、応えたいと思ったんだ。

「この先、バトルもすることになるだろう。傷薬も持っていくといい」

船長さんからいくつかの回復道具をもらい、頭を下げてから、部屋を出た。

「……ポッチャマ、本当によかったの?」

納得していたように見えたけど、船長さんといたかったんじゃ、なかったのかな。あれほど心配していたのに。
ポッチャマはううん、と首を振った。

『いいんだ、……それに……僕は海の案内人だから、陽佐の助けになりたい。僕を助けてくれた陽佐のために。もう、船長さんにはいっぱいお世話になったから』

へにゃりと笑ったポッチャマは、まだ寂しそうだったけれど、任された以上はもう、寂しくさせられない。これから、よろしくね。と笑うとポッチャマもにこっと笑ってくれた。

ずっと黙っていたアブソルを見ると、どことなく複雑そうな、煮え切らない表情をしていた。だけれど、ポッチャマに向ける視線は冷たいものではなかった。

「アブソルも、仲良くしてね」

『……あぁ』

躊躇いつつも返事をしてくれて、一安心。
さあ、この先へ進もう。立ち止まれないから。海の案内人がいるから、迷うことはない。



(僕は、案内人。だから、君を導いてみせるよ)

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