太陽と月
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一通り話終わると、船長さんはうちの頭をぽんぽんと撫でてくれた。
「大変だったね、……ここまでよく頑張ってくれた」
「そ、そんなこと、」
「ポッチャマは私のポケモンじゃないけれど、ずっとこの船に乗っていたからね。それに、知ってるかもしれないけど、この子は特別なんだ。……無事でよかった」
「色違いの、ことですか?」
まだ少しぐずっているポッチャマを撫でながら船長さんは頷く。
目が色違いだと言うのは、アブソルから聞いたことだ。
「……この子の目はね、色違いというだけじゃない。特別なんだ。」
「特別……?」
「まだ君は見たことがなくて当然だろう。……この子の目は、太陽に透かすと本当に美しくなる。波紋が広がった水面のように。」
それは、知らなかった。単純な色違いというだけじゃないのか。ポッチャマを見ると、目に涙を溜めてこっちを見ている。涙で瞳がきらきらと煌めいて、太陽に透かさなくても宝石みたいだ。
船長さんは、そっとアブソルにも目を向ける。そして、うちの方に視線を戻した。
「君のアブソルも通常の色違いとは違う。……気を付けた方がいい、ここに乗り込んできた連中は、ポッチャマだけじゃなく、珍しいポケモンは売り捌く奴らだ」
「っ!」
「……不甲斐ないよ、私は船長なのに。君のような子どもも巻き込んで、船内のポケモンたちまで……」
歯を食い縛る船長さんに、なんて声をかけていいのかわからなくて。それでも、ポッチャマは慰めるように船長さんの頭をよしよしと撫でていた。
『僕っ船長さんが無事でよかったよ! だから、そんなこと言わないで……』
「……慰めてくれてるのかい? あぁ……いい子だね、ありがとう」
それは、ポケモンの言葉がわからなくても、ポケモンの言わんとしてることを察することができる様だった。
薄く微笑んだ船長さんは、突然立ち上がって、うちを見下ろした。
「そうだね、こうしちゃあいられない。私はこのサントアンヌ号の船長として、行動をしなきゃならない」
さっきとはうってかわって力強い声になった船長さんは、ポッチャマをうちの肩に乗せた。
「私はトレーナーじゃないから、君たちについていっても足手まといになるだけだ。……てもちポケモンも奪われてしまったしね。これから外部との連絡をとることにするよ」
そう言った船長さんは、部屋の片隅においてある電話を指差した。そっか、警察に連絡さえできたら。
「ああ、その前にこの二人を縛るのを手伝ってもらえるかな?」
「はい!」
船長さんが縛られていた椅子と、電話の前に置いてあった椅子を持ってきて、にこりと笑った。
ポッチャマもふんふんと頷いて船長さんを縛っていた縄を持ち上げている。
気絶した男二人は流石に重たかったので、船長さんが座らせてくれた。そこからは簡単だ。ぐるぐる巻いてきゅっとして終わり。倒れていたズバットはボールの中に入れた。
船長さんは、騒がれたら厄介だからと、タオルを持ってきて口を塞いでいた。
「さあ、これで大丈夫だろう……君たちは、これからどうする?」
「……これから、倒しにいきます」
警察が来るまでの間、少しでも。
だって、ポケモンたちのために何もできないなんて。
拳をぎゅっと握りしめると、船長さんがそっと頭に手を乗せてきた。
「……君のような子に前も会ったことがあるよ」
「え……」
「無鉄砲で、危険を省みない。……だけど、強い目をしていた」
そう言った船長さんは、どこか懐かしむような目をしていた。そのまま優しく撫でられて、ほんわりと暖かくなる。大丈夫、と言われているようだった。
「行っておいで、大人としては止めないといけないのだろう。……だけど、止めたって聞きそうにないからね」
船長さんは、何を思っているんだろうか。それでも、そう言ってくれたことは嬉しかった。止められたって、きっと聞かない。進まなきゃ。助けなきゃ。
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