太陽と月
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それは、深い海を覗くような感覚だった。まるで水面が瞳の中にあるみたいな。手を伸ばしたら、その水面に入ってしまえそうな程に綺麗だった。
「ポッチャマ、どうしてここにいるのか覚えてない?」
『……僕、ここの船に乗ってて、みんなに相手してもらってたんだけど……』
そういえば、サントアンヌ号は世界一周旅行みたいな感じで地方を回っているんだったっけ。もしかしてポッチャマはずっとこの船にいたんだろうか。
『昨日だったかな、急にみんながいなくなっちゃって……探してたら、黒い服の人たちがいて、それから……覚えてない。目が覚めたら陽佐がいたよ』
「そっか……ポッチャマはトレーナーはいないの?」
『うん。僕、元々野生なんだけど、ちょっとしたことがあって、ここの船に乗せてもらってるんだ。みんな可愛がってくれてたんだけど……』
段々と沈んでいくポッチャマは未だに状況を理解できていない様子だった。
つまり、この船が襲われたのは昨日ぐらいで、全員捕まってるか何かで外との連絡がとれていないのかもしれない。
一時間だけ一部の場所を公開しているのは本当なのかもしれないけど、きっと船員が全員入れ替わってる。
圧倒的に不利な状況だけど、このポッチャマと少ないポケモンだけは別の檻。そして前からこの船に乗ってたっていってる。
「ねぇ、ポッチャマはここの船の案内とかできる?」
『うん、僕ぜーんぶ覚えてる』
「……ポッチャマをここから出してあげる方法がある」
『えっなに!?』
「モンスターボールに、入ってほしい」
『……おい』
アブソルが横から口を挟もうとしてくるけれど、このチャンスを見逃すわけにはいかなかった。
「うちも、捕まりそうになっている。でも、ポッチャマが案内してくれたらまともな行動ができる。ただ、この檻にはポッチャマ以外も入ってるから、壊したら他のポケモンが目を覚ました時にパニックになっちゃうよね」
『……うん』
ここまでは理解してくれたようで、頷いてくれた。でも、ポッチャマが了解してくれるかはまだわからない。
「ポッチャマだけなら、モンスターボールを当てたら連れ出せる。後は、逃がすことだってできる。……どう、かな」
『……そんな条件、信じられるわけねぇだろ』
ぼそりとアブソルが呟いた言葉に胸が締め付けられる。そうだ、ポッチャマだって混乱してるし、信じてくれるかもわからない。でも、すがるしかない。
ぎゅっと檻の柵を握ると、ポッチャマがそっと手を掴んできた。
『……いいよ。僕にできることだったら、なんだって』
「……ほんとに?」
『だって、陽佐は僕たちを助けに来てくれたんでしょ?』
隣にいるアブソルが、目を見開いたのがわかった。
にこりと笑ったポッチャマはさあ、と言わんばかりに顔を柵の間に突っ込んでめり込んでる。
「い、痛くない?」
『え、こうしたほうがボールあてやすいとおもって』
ちょっとふごふごしながら喋るポッチャマは可愛いけれど、その健気さに早く応えなきゃと思って慌ててボールを取り出す。
はみ出してるくちばしにボールのスイッチを当てると、キュンッと吸い込まれていった。そして、ボールはゆらゆらと揺れて、カチンッと音を鳴らして収まった。
「……よし」
ボールからポッチャマを出すと、座り込んでいた。
『えへへ、よろしくね陽佐、アブソル』
『……ふん』
「うん、よろしくね」
ポッチャマを一回撫でると、そのまま肩によじ登ってきた。可愛い。アブソルはそっぽを向いてしまったけれど、特に嫌がっている様子はない。
『案内は僕に任せてね』
「任せるよ。……さあ、行こうか」
これで、多少は楽になったらいいと思う。
未だ眠り続けているポケモンたち。絶対に助けてみせる、と唇を噛んだ。
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