太陽と月
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少し重量感のあるドアを開ききると、中はほんのりと薄暗くて。全体が見えないから、部屋の内装もよくわからない。すごく狭く感じる。
そして、ドアを閉めてからよくよく目を凝らすと、何か四角いものが奥にぼんやりと見えた。


『……あそこだ』

「えっ?」


アブソルは呟くと早々と進んで行く。暗くても見えるんだなぁ。
それに何とか足元に注意してついていくと、ようやく形が見えて、それは四角くて、無機質にそこにある。
正に檻といっていいものだった。


「……!」

『……眠らされてるな』

「こんなに、いっぱい……」


そこには檻が二つあった。一つは檻いっぱいに詰められたポケモンたち。二つ目は、少し小さな檻で、少ない数のポケモンたちが閉じ込められていた。

騒がないように、脱走しないようにと眠らされてるのかな。見れる限り、どのポケモンも気持ち良さそうには眠っていなかった。


「……どうしよう」

『何が』

「どうやって、助けたらいいのかな」

『……助けるつもりかよ、この数を』


バカにするでもなく、驚いたわけでもなく。ただ淡々と言ったアブソルに小さく頷く。だって、このまま見捨てるなんて。

だけど方法がわからない。力が抜けたように小さな檻の前でしゃがんで、目の前の鉄格子をぎゅうっと握った。ひんやりと冷たくて、何にも感情なんてそこにはない。遮られてるこれを、壊すこともできないけれど。


「……お願い、協力してほしい」

『…………』

アブソルが口を閉ざすと、握った鉄格子越しに、何か冷たいものが触れた。鉄格子とは違う冷たさの、そう、生き物の。

視線を下に落とすと、そこには小さな体をのそりと起こしたポケモンがいた。このポケモン、知ってる。


「……ポッチャマ?」

『…………チャマ?』


眠たそうな目を瞬かせたポッチャマはゆっくりとうちに目を合わせると、あれ? と言いたげに首を傾げた。なんで、シンオウ地方のポッチャマがこんなところに。

すると、アブソルは何かに気づいたようでうちの腰をつついた。


『……おい、コイツ……』

「どうしたの?」

『……だれ?』


アブソルが何かに気づいたようだったけれど、それを言う前にポッチャマが不思議そうにこっちをじぃっと見てくる。

その目は、暗くてもわかる、宝石のような目だった。吸い込まれそうで、キラキラとした。
この宝石を光の下で見たらどれだけ綺麗なんだろう、とドキドキしながらじっと見つめていると。


『……ねぇ、えっと、だれかな』

「あ、あっごめん。あのね、陽佐っていうんだ」


他のポケモンを起こさないようになるべく小さな声で話すと、ポッチャマもそれに合わせてくれたのか手をくちばしに寄せてぼそぼそと喋りだした。


『陽佐っていうんだね。あのね、ここどこかなぁ。どうして君の僕の間にこんなのがあるの?』

『……ちょっと待て』

「えっ?」


アブソルが急に話の間に入ってきた。どうした、無視されたみたいで寂しかったの?

アブソルはそんな内心を知ってか知らずかじろりとうちを睨むとぐいっとリュックを引っ張って少し檻から遠ざけた。急なことで尻餅ついちゃった。痛い。


「え、え、なに?」

『……あのポッチャマはまだ子どもだ、叫ばせるようなことは言うなよ』

「あ、はい」

『それと……あのポッチャマは色違いだ』

「……えっ?」


小さく耳元で告げられた事実に、目を丸くすることしかできなかった。色違い、っていうと。確かにこんなところに捕らえられている理由だって納得できるけれど。


『……目を見ただろ。お前はちゃんと見えてねぇかもしれないけど』

「目の、色が違うの?」

『あぁ、……俺もはっきり見えたわけじゃない、けど……物好きに高く売れるだろうな』

「っ!」


目の色が違う。それだけの色違い。それだけ、だけど。宝石のようなあの目が、惹き付けるものがあるとしたら。

その発言に思わずポッチャマの方を勢いよく向くと、ポッチャマはびくりと体を動かした。


『……ぼ、僕……何かしたかな……?』


不安そうに声を震わせたポッチャマは、檻の中で高価な宝石を一瞬だけ光らせたように見えた。





(陽に透かしてみたくなるような瞳だった)

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