太陽と月
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それから、甲板からどうにか助けを呼べないかと思ったけれど、甲板への出口も何人かで封鎖されている、とアブソルが耳をすませて教えてくれた。
少し疲れて息を吐き出すと、アブソルがピクンと体を震わせた。
「……アブソル?」
『……ポケモンの臭いがする、気持ち悪い人間の臭いと混ざったポケモンの臭いじゃねぇ……』
「え……」
『来い』
スタスタと進むアブソルは、慎重に辺りを見回している。それに慌ててついていくと、アブソルが急に曲がり角付近で足を止めた。
ぶつかりそうになって焦って止まると、アブソルがこっちを向く。
『……あそこだ、今何人かが見張っている』
「……何人、いる?」
『三人』
「……いける?」
『あの三人がどうなってもいいなら』
スッと目を細めたアブソルの目は冷え冷えと寒くて、鋭い。それでも、前みたいに感情は爆発させてない。我慢、してる。
ピリピリと緊張が肌で伝わってくる。うちは小声でアブソルに指示を出した。
数は三人。ドアの前とその両隣にいるらしい。
「……アブソル、でんこうせっかで端の方にいる人を気絶させること……できる?」
『……まぁ、加減できたら』
「加減してね。そしたら、後は……何とかするから」
『……適当だな』
「なるようになるよ、大丈夫」
じゃあ、お願い。そう言うと同時にアブソルが飛び出した。力強く床を蹴って。ちら、と床を見ると踏み込んだ跡がしっかりとあった。
そして向こうから呻き声が耳に届いた瞬間にうちもアブソルのいる方へ駆け出した。
「なっ、なんだこのポケモンは!」
「ガキも出てきたぞ!」
床に倒れていたのは女の人だった。あぁ、ちょっとだけごめんなさい。
驚きの声を上げた男二人が腰に手をかけるのと、うちが動いたのは多分同時だった。
「アブソル!そのまま腹に突っ込んで!」
指示通りに男の腹めがけて突っ込んだアブソルの角がめり込むのを一瞬だけ捉えてすぐに目の前の男に視線を戻す。そして、一気に踏み込んで脇腹に蹴りを入れてぐっと容赦なく蹴り飛ばす。
潰れたカエルみたいな声を上げて、男は床に倒れ込み、苦しそうに悶えている。
やっぱり、一発じゃ無理だった。
くらりと目の前が歪む。真っ黒に、真っ白に。
そして大きく息を吐き出せば、視界がクリアに変わった。
「……ごめん、な」
丸まってる男を足で転がして仰向けにする。そして適当に押さえてる腕を足で退かして、今度こそ気絶するようにとみぞおちを踏みつけた。
男の声は、耳を塞いでいても聞こえるぐらい、嫌な潰れた声だった。
『……い、……おい、』
「……」
『おいっ』
「!……アブソル?」
『終わっただろ、早く中入るぞ』
パチ、と目を瞬かせるとアブソルが怪訝そうにうちを見上げていた。あぁ、アブソルも気絶させたんだ。よかったよかった。
気絶させた三人は多分暫く目を覚まさないと思うし、拘束する道具もないからこのままでいいかな。うん。
アブソルにわかった、と返してドアを開けようとそっと力を入れると、意外にもあっさりとドアは開いた。なんだ、鍵かかってないのか。
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