太陽と月
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少し苦い香りが鼻を刺激する。草むらは小さな薬草の畑みたいだ。苦いといえば粉末状の薬はたまったもんじゃなかった。最近は病気になってないから飲んでないけどね。
日当たりもいいと草もよく育つんだろうな、と視線を下に向けると返事をするように草っぱがふわりと揺れた。
『まだかよー』
「もうちょい、っていうか見えた!」
ピチューが肩を叩いて急かす。そう、今はクチバシティに向かっている最中だ。少し遠くでオレンジ色の建物が顔を覗かせていた。やっとつく、と走ると気持ちいい風が肌を撫でる。そして段々と潮の香りがやってきた。そういえばクチバには港があるんだったよね?
タンッと地面を蹴ると、地面から跳ね返されてぐっと進む。やっとだー!と大きく跳ねて着地。
「ついたー!」
『ついたー』
ばんざーいと手を上げるとピチューが小さく拍手してくれた。ノリいいな、とピチューを見ると目が冷めてて、うんごめん。早くしろと無言で訴えてきている。そうだね、早く宿取ります。
宿を取ることにも随分慣れてきて、あぁ旅してるなって気持ち。何となく空を見上げていると小さな声が下から聞こえてきた。
『……ガキかよ』
「……、ん?」
ぽそっと聞こえてきた声に首を傾げる。誰だ、いやこの声はアブソルかな?
アブソルのボールを取ると、ジト目のアブソルと目があった。
「……アブソル今しゃべった?」
『人形じゃねぇんだから当たり前だろ』
「……そうだね」
『お前話に入ってくんの珍しいな、ってか初めて?』
『るっせ』
ピチューがボールをのぞき込むと顔をそらしてしまったけど、なんか今ちょっと嬉しかった。アブソルの憎まれ口は可愛くないけど。ボールをつつくと小さなアブソルは睨んできた。ボールに入ってるとマスコットみたいだね。
じーっと眺めているとピチューがくいくいと服を引っ張ってきたので、はいはいとボールを戻してセンターに向かう。
宿を取ってお昼ごはんを食べようと食堂に向かうと、ふとロビーのテレビが目に留まった。
「……サントアンヌ号、クチバの港に……」
テレビを見つめていると、どうやらクチバの港に豪華客船のサントアンヌ号が来ているらしい。確かあれだ、いあいぎりを貰えた場所。ゲームだとわかんなかったけど、実物を見たらすごくおっきな船なんだろうな。
入れないだろうけど、後で見に行ってみよう。
「あ、ご飯食べなきゃ」
そうだそうだ、ご飯。小走りに食堂に向かうと、ちょうど食事時だから人が多かった。とりあえずパスタを頼んで受け取ってから空いている席に着く。いただきますと手を合わせて、フォークを持った。
あ、美味しい。ミートソースがちょっと甘くて、じゅわっと味が広がる。やっぱり食事の時間は好きだなぁと食べていると、近くの席から会話が聞こえてきた。
「……サントアンヌ号、一時間だけ一部の場所を開放しているらしいよ」
「へー、豪華客船が!」
ごくんと飲み込んでその会話に耳を傾けていると、あと少ししたら開放されるらしい。豪華客船が開放ってすごいなぁ。やっぱりシャンデリアとかあるのかな。
豪華客船の内装に想像を膨らませていると、いつの間にか食べ終わってしまった。あ、味わう前に終わっちゃった。
少し悲しいけど、ごちそうさまでした。と食堂を出て部屋に向かう。今日はちょっとおっきな部屋だ。
一人旅、じゃないけど泊まる時は毎回わくわくする。たまに、少し寒くなるけど。早く夏にならないかなぁ。
部屋に入って、アブソルを出してピチューを抱えて床に下す。二匹はなんだと視線を向けてきた。
ふっふっふーと胸を張るとアブソルに軽く蹴られた。酷い。こほん、仕切り直しだ。
「……豪華客船行こうよ!」
大きく腕を広げて誘うと、ピチューは目をパチパチさせて、アブソルは少し俯いて大きなため息をついた。あ、あれ、やっぱりダメ?
そして、アブソルの細まった目とかち合った。
『……好きにしろよ』
「ほんと?やったー!」
ため息と一緒に吐き出された言葉に両手を上げて喜ぶと、アブソルはそっぽを向いちゃった。ありがとう、とアブソルの頭を撫でると振り払われちゃったけど。
ピチューも大丈夫なのか、ぴょん、と肩に飛び乗った。よし、行こうか。
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