太陽と月
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それから交番に行った後にセンターに戻って部屋に行くも、アブソルは苛立ちを抑えきれない様子で不機嫌そうに座り込んでいた。


「アブソル、」

『うるせぇ』


低く、威嚇するようにこちらを睨みつけるアブソルはまるで最初、出会った時のようで。せっかく掴めそうだった情報が白紙だったんだから仕方ないだろう。針が刺さるような空気、ピチューのため息がやけに大きく聞こえた。


「すぐ見つかるわけじゃないし、根気よく行こうよ。ね?」

『そっんな悠長なこと言ってられるかよ!』


響いたアブソルの怒号に、空気が、震えた。突然のことに驚いて、肌が一瞬で体温をなくす。飢えた獣のように息を荒くするアブソルは凄く、不安定。一度怒鳴って落ち着いた、いや空しくなったのか、舌打ちをして首を振った。


「……ごめん」

『……別に』


思わず謝ると、アブソルも罰が悪そうにそっぽを向いた。何も、言えることがないのがもどかしい。こういう時、なんて言ったらいいのかな。あぁ、でもやれることはどんなに小さなことでもいい。そう、やれることなら。


「……ピチュー、ごめんね」

『は?』

「アブソル、明日にはもうここを出ようか」

『……ジム戦はいいのかよ』

「だって、そんな悠長なことしてられないんだよね?」


笑いながらそう言うと、アブソルはぽかんと間の抜けた顔をしたと思ったら、次の瞬間には意味を理解したのか少し不機嫌そうな顔をした。だって、ジム戦はいつだってできるじゃんかね。


『……いい、別に』

「なんで?」

『そりゃ、兄貴のことは探したい。でも、人間にそんな、』

「そんな意地張ってないで、探したいのか探したくないのか、どっち!」


アブソルの声を遮ると、アブソルはぐっと押し黙ってうつむいた。だって、本当の家族じゃなくったって、大事なお兄ちゃんなのに。そんなつまんない意地で迷うなんて。

数秒、でも長い沈黙。そしてアブソルはゆっくりと口を開いた。


『……探したい』

「! じゃあ、決まり!」


ぽつりと小さな声だったけど、それは確かに本音で。よしよしとアブソルを撫でるとふい、と顔をそらした。なんだか、アブソルは子どもみたいだ。
それから、ピチューを見ると少し不満そうだったものの仕方なさそうにため息をついていた。


『……仕方ねーから、それでいい』

「ピチュー、ごめんね?」

『でも、見つけたらジム戦だからな、絶対だからな』

「はーい」


譲歩してくれたピチューには今度なにか買ってあげよう。そんなピチューは嫌がらせなのか、アブソルの背中に乗ってトランポリンのように跳ねていた。アブソルも、少し我慢していたけれどすぐに振り落した。あ、また乗った。
最早日常になりつつある光景、それに馴染んできているのが少し不思議な感覚だった。

もうすぐ夜になる頃、静けさとは反対のこの空間が心地よかった。




(だから、一緒に探したいと思う)

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