太陽と月
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「……まあ、頑張ったよね」

あの後、二人目までは勝てたものの、三人目でついにピチューが力尽きて倒れてしまった。幸いにもお金はいらないよと言ってくれたのでよかったんだけども。ちらっと部屋の隅を見ると、だ。

治療も終わって戻ってきたピチュー、今はすごく不機嫌な顔をしている。頬の電気袋を膨らませてそっぽを向いてしまっているもんだから、さてどうしよう。


「……ピ、ピチュー?」

『……もっかい行くぞ』

「へ?」

『もっかい! あとちょっとだったのに!』


じたじたと短い手足をばたつかせて駄々をこねるピチューはあれだ、おもちゃを買ってもらえなくてごねている子どもみたいだ。もっかいもっかいと訴えてくるピチューに、でも今からじゃいないかもしれないよ、と言っても意味がないんだろうな。

アブソルは今はボールから出てそんなピチューを白い目で見ている。こうして見ると、アブソルは今までより随分とおとなしくなったように思える。少し、雰囲気が柔らかくなった。あのトゲしかなかった空気が丸くなったなぁ。


『……おい!』

「はい?」

『いーくーぞー!』


ぐいぐいと服の裾を引っ張ってくるピチューはなんだか一人でも行ってしまいそうだ。これはもうあきらめて行こう。行こっか、とアブソルをボールに入れて立ち上がるとピチューは嬉しそうに肩に飛び乗った。
今は夕方、もうそろそろ夕焼けが沈んじゃう時間。外に出ると小さな子たちが親に手を引かれて家に帰っていた。
軽く走って橋に向かう。さすがにもういないだろうと思っていたんだけど、なんとまだいた。それも全員。だけどその様子は昼前に見た時と違ってどこか怪しい。なにか、こそこそと内緒話するのが見える。

さすがにいきなり声をかけるのもどうかと思って橋の前で足を止めた、時。ちらりとお兄さんが取り出した帽子に、なにか見覚えが、というかあれは。
うちがそれに気づいてピチューに声をかける前に、ピチューはうちの肩から降りてそこに突撃していった。


「うわっ!?」


ピチューがその輪の中に入っていくと、そこにいた人たちは驚いて、一気にピチューに視線が集まる。でもピチューは全員を見上げてやる気満々って感じだ。いや、ダメだよピチュー。慌てて駆け寄るも、すでに遅い。


「あぁあ……すみません」

「え、あ、昼間の」

「ちょ、ちょっと負けたのが悔しかったみたいで……」

「……そう、」


笑ってごまかそうとするも、なにかがおかしかった。空気が、違う。少し息苦しくて、のしかかるような重圧が、あった。そっか、と笑うお兄さんの目が、笑っていない。あ、これやばいやつだ。もう、関わっちゃいけなかった。ガンガンと警報がうるさく鳴り響く。一歩、後ろに後ずさると綺麗な笑顔を張り付けたお兄さんが一歩、近づく。
そしてピチューもこの雰囲気に気づいたようで、うちとお兄さんの間を阻むようにタンッと立ちふさがる。


「……困ったなぁ、今日は何の収穫もなかったから帰ろうと思ったのに」

「……」

「もしかしなくても、これが見えて……この意味に気づいちゃったよね」


後ろ手に持っていたそれを、真っ黒な帽子を、見せつけるように前に持ってきたお兄さんはそれを深く被ってあくどい笑みを浮かべる。あぁ、本当に遅かった。
いつの間にか、周りはもう取り囲まれていて、逃げ場はない。五人、女の人は二人。いけるかな。


「さて、ここで手持ちを渡してくれたら見逃してあげないこともない」


すっかり口調も変わったお兄さんは口元を歪めて品定めするようにピチューを見ている。対するピチューはパチパチと電気を出して威嚇している。そして、答えは聞いていないといわんばかりにじり、と近づいてくる五人。

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