太陽と月
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そして体を離してから、5分は経っただろうか。気まずそうに目を反らしているアブソルと、それを見つめているピチューとうちの図が出来上がった。
「……えっと、アブソル?」
『……なんだよ』
「……その、……今までなにがあったとか、教えてくれないかな?」
さすがにずっとこのままというわけにもいかないので、気になっていたことを振ってみる。ピチューも気になっていたことなのか、少し落ち着かない様子だ。
問いかけにぐっと口を閉じたアブソルだったけど、話してくれる気になったのか目線を反らしたまま、口を開いた。
『……俺には、兄貴と慕ってたポケモンがいた』
『慕ってた……ってことは群れか?』
『違う、……俺はそもそも群れにいれなかったんだよ』
それは、理由を言わなくてもわかった。もちろん、ピチューも。一瞬だけ、その角に目がいく。
アブソルは嫌なことを思い出した、とありありと顔を歪めつつも話を進める。
『……偶然、会ったんだよ。群れを出てから。 ……それから、俺がついていって……』
『……それで?』
『……さっきの、あのマークをつけた奴らに取り囲まれて……っ』
一回そこで言葉を切ったアブソルは思い出しながらもまた怒りが沸いてきたのか、ギリッと歯を食い縛る音が聞こえた。少し、空気が張り詰める。背中にナイフが突きつけられたような、そんな緊張感。こっちまで、刺されてしまいそうな迫力がアブソルの周りに充満している。
『兄貴が、庇って、逃がしたんだ、俺を。そこからは、……兄さんの消息は、わかって、いない』
兄貴、兄さん。さっきは兄さんって呼んでたのに。兄さんって呼ぶ瞬間は、アブソルが幼く見える。その時ばかりは、さっきまであった迫力も何処かへいき、小さく萎んでいる。泣き出しそうで、でも我慢している、どこかで見たことのある光景。
「……アブソル、探したいよね?」
『……?』
「お兄ちゃんのこと、探したいよね?」
『……』
一瞬、言葉がわからないといった感じに瞬き。一拍置いて理解すると、アブソルは強い目で頷いた。赤い目に、光が宿ったのがわかる。
「お兄ちゃんってね、すっごく強いから……きっと大丈夫」
『……なにを根拠に』
「ふふん、実はうちにもお兄ちゃんがいるのだ!」
どうだ! と胸を張るとアブソルとピチューから若干冷めた目で見られた。根拠になってないって呟いたの聞こえてる。負けないぞ。
でもアブソルは少し気になってくれているのかそわそわしているように見える、見えるぞ。
『……どんな』
『想像つかねぇ……』
ほら、食いついてきてくれた。ついでにピチューも。よしよし、そんな聞きたいなら仕方ない。
「強くて、優しくて、お菓子作ってくれる!」
『……ふーん』
『余計わからん』
「身長高いよ!」
中々家に帰ってこないもんだから今はどれぐらいになっているかわからないんだけどね。いやその前にうちが帰らないと会えない。あっどうしよう。
『……まぁ、あれだ。とりあえずこれからはアブソルの兄貴探すってことでいいかー?』
「あ、はーい」
ピチューが纏めて、手を上げる。ピチューはよし、と頷くとクッションを抱き締めてころんと転がった。
アブソルはというと、どことなく居心地悪そうに目を反らして小さな声で呟いた。
『……いいのかよ、それで』
「いーの! 早く見つけなきゃ!」
勢いに任せてアブソルの頭を撫でる。振り払われるかな、と思ったけど意外にも大人しくて、撫でられてくれた。それは、とっても嬉しいことだ。感情が込み上げてきて、アブソルに抱きつくと、調子に乗るなと前足で蹴られた。痛い。
癒してもらおうとピチューをつんつんとつついてみると尻尾で叩かれた。これも痛い。
でも、何となく旅を始めた最初よりは雰囲気がよくなった気がする。少し、アブソルと近づけた。これで、旅の目的も決まったね。
とぷりと陽も沈んだ外、代わりにはお月さまが色づいて空に昇り始めた。
兄を探して何千里?
(……兄さん、)
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