太陽と月
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ひーひーと盛大に笑っているヘルガーを薄暗い中でもわかるぐらい顔を赤くした男、由乃は唇を尖らせてわかりやすくむすくれた。案外子どもっぽいのかな。
「……お前は!名前!」
「陽佐」
「くっそ即答か!」
「いやだって……」
「まー別に?笑わんかったから許したるけどぉ?」
「うっわ腹立つ」
思わずぽろっと呟いてしまえば由乃はふんっとどや顔を何故かしてきたので早く案内してよと急かしてみた。あーそうそうと忘れてたのか抜けた声を出した由乃はこっちこっちとようやく案内をしてくれた。今さらだけど、R団の人とこんな話してていいのかなぁ。でも親しみやすさがあるというか、なんだろうこの感じ。
ちなみに先導はヘルガーだ。迷いなく進んでくれて安心してついていける。いや安心しちゃダメだけどさ。そして何でか由乃は隣を歩いている。ピチューは由乃から視線を外さずに由乃の動きを見張っているようだった。
「あ、……そういやさ、ヘルガーの名前はなに?」
『言うなや!』
「ん?あーこいつなぁ、俺の名前知った途端爆笑したもんで似たようなやつにしてやったんよー」
また後でな? と笑った由乃はとても楽しそうだ。ヘルガーがぐるる、と唸っているからだろうか、いや多分違うだろうけど。
もう少しで出口、と説明してくれるヘルガーの背中は大きく見えて、それと同時に違和感を覚えた。敵意とかを全く感じられないそれ、まるで当たり前みたいに隣にいる由乃が馴染みすぎて身震いした。
「……どうしてうちにこんな友好的なの?それともいつもこんなの?」
「……ん? お前に?……そう、だなぁ……まーあえて言うならここで摘んでおくほど低い将来性ではないかなー?って」
「……なにそれ」
読めないなぁ、と。勝手に将来性決めてつけられても困るんだけど。少し低いトーンになるのが自分でもわかった。それを見越してか、由乃は毒気を抜くような、ゆるりとした笑みを見せた。
「まぁこっちにも色々あんねんや、……何々それともそんっなに俺のこと知りたくてしかたない?」
「ピチュー、電気ショーック」
『うーっす』
「すまんて」
流れるようなやり取り。なんじゃこりゃ。くすくすとつい笑ってしまうとまじまじと由乃が顔を見てきた。出口の光はもう見えていて、薄い夕焼けの赤みが差した由乃の顔が最初より鮮明に見える。
おお、なんか今時のイケメンみたいな顔してら。多分適当に私服にしたらそこら辺にいるにーちゃんだろう。ちょっと目が鋭い、のかな?
由乃の顔をなんとなく見ているとぱち、と目が合ったのを境に由乃は我に帰ったのか目を瞬かせた。
「……あぁ、いや、女みたいに笑うなと思って」
『や、その子多分……』
「みたいに、じゃないけど」
「……え? ……女?……異性?」
「……あぁ、そうだねぇ異性だねぇ由乃ちゃん?」
「んなっ……!」
少しからかってみると、瞬間湯沸し器がふと連想されたぐらいにはわかりやすく赤くなってくれた由乃は、声も出ないのか口をばくぱくとさせて何か言いたげにしている。
ヘルガーのあーあというわざとらしいため息が聞こえた。そして石像みたいに固まっていたと思ったらようやく勢いよく言葉が飛び出した。
「なんやのん!は?はん?ちょおはよ言えや!」
「えっ言う必要あった?」
「あるわ!」
『……俺も同じような反応したっけ』
「ピチューの方が結構ひどいこと言ってたけどね」
顔をまじまじと見つめられてすごい哀れみの目を向けられたことはきっと忘れないだろう。揃ってうちのてもちは可愛くない。
愕然としている由乃は何故か項垂れていた。もっとわかりやすい顔しとけよと言ったの聞こえてるんだからな。
『まーおいは気づいとったけどな』
「お前その顔自分は気づいてましたーみたいな顔しよって!」
『おー正解せいかーい』
にまっと振り返って目を細めたヘルガーは主人そっくりの顔をしていた。
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