太陽と月
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お昼を食べてから一時間後、お腹も収まってきたからということでもうお月見山に向かっている。もちろんおやつも買ったよ! ドーナツだ!


「お月見山って中は洞窟だっけ」

『知らね、地図買ったならそれ見たらいいだろ』

『……迷いそうだけどな』

「アブソルほんとバカにするの好きだね!」


結構慣れてきたけど。いいけど。アブソルが悪口言うときだけしか口開かないなんて気にしてないもん。ボールの中にいるからって聞こえてるんだからね。ちなみにピチューは肩に乗ってくれている。地味に重たい。

あ、そういえば、ゲームの中だとお月見山ってR団がいたんじゃなかったかなぁ。まぁゲームと内容が同じなワケないし平気かな。

ゆるゆると暖かい日差しを浴びながら進んでいくと突き当たりが見えて、その脇に大きな穴があるのが見えた。きっとあれがお月見山の入り口だろう。


「おー……ついた!」

『早く入れよ』

「はーい」


えいっと一歩入るとひんやりとした、湿っぽい空気が肌を刺激した。中は薄暗くて、少し視界が悪い。ほんの少し、雨のにおいに似たものがあると思った。

小さい頃によく探検したものだけど、洞窟なんて多分入ったことないから新鮮でわくわくする。
ふと、近所の子と木登りして下りれなくなって後から助けてもらったのを思い出した。小さい頃からこうやって旅の準備をしていたみたいだ。冒険心を養っていたのだろうか、と。


「……厚着でよかった」

『ちょっと肌寒いかもな』


町の道のように整備なんてされていない土の道を歩いていく。いっぱいの人が歩いてこうやって道になったのかな、なんて思うとやっぱりわくわくした。うちもその中の一人になったんだ。

そうして機嫌よく歩いていくと入り口から遠ざかるごとにどんどんと暗くなっていって、見つけたはしごを降りて、短い通路を歩いてまたはしごで上がってをしていたら、目を凝らしてようやく見えるぐらいの明るさになってしまった。自然が作った道ということを改めて実感。


『……おい、』

「はい?」

『なんか、おかしくねぇか』

「ん?」


少し低い声で話しかけてきたピチューはなにやら身構えているようで、その警戒の姿勢に思わず足を止めた。


『……ここまで一匹も、一人も、何も見ていない』

「……あ、」

『普通こんなとこなら、ポケモンなり人間なりいるはずだろ。 でも、だ』

「……でも?」

『この先から、人間の気配がする』


確かに、ここに入ってから誰も見ていない。ポケモンですら。言われてみて気づいた違和感。ぞわりと背筋が震えた。

ピン、と尻尾を立てたピチューはうちの肩から下りてうちの前に。そのまま、ゆっくりと歩いていく。自然と、息を殺した。

緊張からか、耳に直接心臓の音が聞こえる感覚。視界が悪いということもあるだろう、緊張はどんどんと高まっていった。ぎゅっと唇を噛んだ、その時。


『っ、隠れろ!』


鋭くピチューの声が耳に届き、ピチューは小さな岩影にすぐに隠れた。うちも隠れようとした時、地面をじゃり、と踏む音が聞こえて、そして、


「……あれ?」

「……うん?」


がっしりと誰かに腕を掴まれた。動かそうとした足は、重心を崩して危うくもつれて転ぶところだった。待って、今気配わからなかった。意外と近くにいた、よね? でも怖い雰囲気ではなくて、ゆっくりと顔をあげるとだ。


「……あ、……あっ!」

「……やっぱり、久しぶり、か?」

「あの時、の!」

「おー覚えとってくれたんやなぁ。んで、ピチュー元気?」


へらりと笑って逃がすまいとうちの腕を一際強く掴んだその男は、前にピチューを狙ってきた男だった。R団、の。でも、前会った時より何となく緩い口調というか、方言丸出しになっているというか。胡散臭さが増しているといえばいいのかな。


「そんな睨まんといてー。……あ、あー……ピチューはもう狙わんからへーきへーき」

「どこにそんな証拠がっ」

「あー……うーん……からかいたかっただけ……って言ったら信じてくれるん?」

「……無理」

「ほれみー!! 無理やろ!無理やろ!?」


凄く、言っちゃ悪いけどバカっぽそうだと思った。自業自得じゃないのかな。
ちらっとピチューの方に目を向けるとちょこちょこっと出てきてくれた。まだ警戒は解いていないけれど。男はピチューに気づいたのかのんきにピチューに向けて手を振っていた。なんか、毒気抜かれる。

はぁ、と思わずため息がもれて湿っぽい空気の仲間入り。ピチューも微妙な顔をしていた。

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