太陽と月
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まだ、大丈夫。まだ大丈夫。戦える。いけるから。本当?本当。絶対。だから邪魔しちゃあ、駄目。
ピチューの電撃が迫ってきていたスピアーに真っ正面から直撃。終わった、と思ったら焦げを作ったスピアーが突っ込んできた。まだ、動けるのか。一瞬のこと、指示は喉をつかなかった。
「っ、あぶな……っ」
『ばっ、かやろ……!』
そしてピチューは咄嗟なのか、地面を蹴って尻尾でスピアーをひっぱたいた。いや、叩きつけた?
鈍い打撃音と同時に、スピアーは地面に羽をつけた。
詰まっていた空気が、喉から抜け落ちる。呆然、まるで一瞬の出来事で、何が起きたかよくわからなくて。渇いた目、反射的に瞬きをした。
『……お前なぁ!』
「は、はい!?」
勢いよく振り向いたピチューが目を鋭くさせて睨み付けてきた。こっちにまで攻撃してきそうな雰囲気のピチューはバンバンと尻尾を地面に叩きつけながら声を荒げた。
『これでジム戦とかばっかじゃねーの!どんっだけ練習しねーといけないんだ!』
「ご、ごめん……」
『つーか俺やられると思ったわ!指示!指示出せ!何でもいいんだよ!あとへこむな!俺が悪者みたいだろ!』
「う、ん……。……忙しいね」
『誰のせいだと思ってんだ!これ、俺叫びすぎて喉潰れたらビンタするからな!』
「その手で?」
『尻尾に決まってんだろーが!』
怒ってるのかボケてるのかわからなくなってきた。可愛いぞこのピチュー。尻尾とかわからないよ。尻尾も手も短いじゃないか。ぷんすかと効果音が似合いそうなピチューは八つ当たりなのか、アブソルの上に乗って寝転んでしまった。
でもアブソルは体を揺らしてすぐに落としたけど。あ、また乗った。
『何様だてめぇは!』
『じっと黙ってただけのやつに言われたかねぇよ!労れ!』
『なんっで俺がそんな面倒なことしなきゃなんねーんだ!』
『はぁあ!? おまっ、ほんっとなぁ!』
あぁ、そんなに騒いだらまたポケモン寄って来るよ。バチバチと火花を鳴らしているアブソルとピチューはすらすらと暴言を並べてはぶつけている。減らず口ってやつか。
「ほら、そんなに騒いだら疲れるよー?」
『誰のせいだと……』
舌打ちを一つ漏らして睨んできたピチューは大きなため息をしてからアブソルから飛び下りて、倒れているスピアーのところに足を向けた。それにつられるようにうちもそっちに目を向ける。
ぴくりと羽を一瞬動かしたスピアーだったけどそのまま動かずに突っ伏したままだ。
『……』
「どうしたの?」
『あー……こいつ最初になんか喚いてたから……何だったのかなって』
「……あぁ、前会ったスピアーと何か関係あった、のかな?」
『うーん……まぁ、いいか……ほれ次行くぞ』
「えっこのスピアー放置?」
ボロボロなんだけど、というと当たり前だろと言わんばかりに首を傾げているピチュー。ようやくここで、野生で生きてきたポケモンの価値観を垣間見た気がした。
さっさと先に行こうとするピチューだけど、こっちの気分としては行き倒れを見捨てる気分なんだけど。いや倒した張本人というかトレーナーだけどさぁ。
辺りを何気無しに見渡すと、木の実がなっていたので、背伸びしてそれをもぎ取りそっとスピアーの横に置いておいた。
『……なにしてんだ』
「いや、せめてもの……ってね」
『……甘いなお前』
じとりとうちを見たアブソルはまたため息をついた。思わずこっちもため息をつきたくなる。
さてどうしよう、全く仲良くなれる気がしないし一応一番最初の子のはずなのにピチューに乗っ取られてる感じが。あ、次のバトルではアブソルで頑張ろうそうしよう。
よし、と意気込んだものの気づけばアブソルはピチューの後をついて置き去りにされていた。おかしいな、トレーナーここなんだけど。
「……待ってよー!」
一度スピアーに目を向けてから、また前を行く二匹を追いかけた。少しだけ、その後ろ姿が二人と被ったような気がしたのは何でだろうか。
今はない温もり
(無性に、あの背中に抱きつきたくなった)
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