太陽と月
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草木を掻き分けて着いたのは町から少し離れた場所。太陽の光が程よく当たって心地好い所だった。
「…アブソルは?」
「…あー…出す、ね」
いきなり漆姫に襲いかかったらどうしようと不安が過ったけど、いや流石にそんなことはしないはずだとボールからアブソルを出した。
パカン、と小気味いい音と共に出てきたアブソルはやっぱり不機嫌そうな顔。
「…アブソルだ」
「本当に銀、だな」
『………うっせーな』
「…喋った」
『喋れるに決まってんだろ』
ギロリと睨み付けたアブソルに内心気が気じゃない。漆姫は初めて見たのか、アブソルをじぃっと観察している。支智さんはアブソルを物珍しそうに角の部分を見つめていて、アブソルは居心地が悪そうだった。
そしてピチューがため息をついたのを皮切りに、アブソルはそっぽを向いてしまった。
『…そもそも俺になんの用だよ』
「別に、なんでもない」
『なんでもないならもう戻るぞ』
「………」
『…なんだよその顔』
唇を尖らせてしまった漆姫にアブソルも冷たく跳ね返せなくなっている。面白いな。写真撮りたい。同じようなことをピチューも思ったのか鼻で笑うのが聞こえた。
と、ここまで考えて違和感。あれ、なんで、今会話、成り立ってたよな。
「…あの、さ」
『…あ?』
「漆姫、今…会話してた?」
「…?うん」
なんでそんな質問、と言いたげに不思議そうな目を向けた漆姫は首を傾げている。え、ポケモンの言葉って普通聞こえるもんだっけ、あれ。
混乱し出したうちに、支智さんがぽん、とうちの肩を叩く。その顔は、面倒事を抱えた苦労人のような顔だった。
「…もしかして、怜に何も聞いてない?」
「え、…多分、はい」
「…そっか…あー…わかった、説明する」
渇いた笑いを一つ漏らした支智さんは座って、と先に座って地面を叩く。座る時、ピチューが苦々しい顔をしていたのを一瞬横目で捉えた。
「多分、これから先知っていくことになると思うけど…」
そう前置きした支智さんは次に耳を疑うようなことを言った。
「ポケモンは、擬人化するんだ」
「………はい? え、擬人化、え?」
「あはは…どこから説明したもんかなぁ…」
ため息をついた支智さんには悪いけど思考が全く追い付かない。聞きなれない言葉、擬人化。人になれるってことなのかな。
そんなうちに追い討ちをかけるように言葉は続く。
「…あー…つまり、俺もしっきーもポケモンってわけ」
「…ポケモン」
「そう、ポケモン。 今は人間の姿だしわからないだろうけど…俺はカイリューだ」
「…カイリュー」
カイリューって、あのカイリューだよな。確かに支智さんの髪の毛は綺麗な橙だけど、にわかに信じがたい。擬人化って、そんなことあり得るのか。
「…擬人化っていうのはさ、どんなポケモンでもできるわけじゃないんだ。 条件がいる」
「トレーナーになついていることが条件で、条件を満たしているポケモンは擬人化とポケモンの姿…原型を使い分けることができる」
「一応、擬人化はトレーナーの間では有名な話ではある。…だけど一般には広めないでおこうっていう暗黙の了解みたいなところはあるらしい」
「といっても大体みんな知ってることには知ってるらしいけど… 擬人化について詳しいことはまだわかっていない。 ……と、まぁこんな感じかな」
支智さんの説明が終わるときにはもう頭が真っ白。吹雪が荒れたみたいに白。いつの間にか漆姫もアブソルも話を聞いていたようで、じっとこっちを見ていた。
支智さんがちょっと難しかったかなとか言ってるけど難しいというか予想外すぎて理解が追い付かないというか。
擬人化、人の姿をとるポケモン。少し、羨ましいだなんて思った。
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