太陽と月
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うちとアブソルの間に入ったピチューは短い腕を組んでギラギラと目を光らせる。



『喧嘩すんな! 俺の前でぎゃーぎゃーと…ちったぁ仲良くできねぇのか!』

「…ピチュー?」

『ってーな…』

『…チッ…あー………お前ら不仲すぎんだろ…はぁ? 何だよお前ら先行き不安すぎる…』



タンタンと片足で床を叩くピチューは悶々と悩んでいて、何だ何だと思っていたらアブソルを睨み付けてもう一度小気味いい音を鳴らしてひっぱたいた。



『っー…な、んなんだよお前は!』

『なんだよじゃねぇ!腹が立ったからだ悪いか!』

『悪いわクソ鼠!』

『お前はちょっと黙ってろ!』



凄い理不尽な会話が目の前で行われている。火花を散らしている二匹、アブソルが今にも飛びかかりそうで。だけどピチューはアブソルからこっちに視線を変えて、襲いかからんとばかりに鋭く射抜かれる。

盛大な舌打ちを一つした後、ピチューはうちを指差した。



『いいか、俺はお前たちのこれからが不安すぎる!』

「えっ、あ、はい」

『だからだ! 先輩であるこの俺がついていってやる!』

「…うん?」



どういう心境の変化なのだろう。全くもって意味がわからない。アブソルも怪訝そうな顔をしているし、ついてきてくれるのはありがたいけど。

うちとアブソルからの視線に我に返ったのか、一瞬目線をうろつかせたと思ったらすぐにまた持ち直した。



『俺は……群れ、纏めてたこともあるんだよ。 だから、その…引っ張っていってやる』

「…え…」

『…ただ、一つだけ』



トーンを落として呟かれた言葉は、絞り出したかのようだった。



『…このアブソルと、旅しろよ』

「…? う、ん」

『それなら俺はついていく、いいな』



当たり前だろうと頷いたものの、ピチューから与えられた言葉が妙にお腹の底に溜まって、重みがあった。簡単に頷いてはいけなかったような、細い糸で繋がれた危うい約束のような。

その言葉を最後にまた寝床に戻ってしまったピチューは、丸まったまま起きてこなくなった。



「…えと、アブソル…」

『………』

「離れられなくなっちゃったね?」

『…どいつもこいつも…お節介ばっかかよ…』

「…アブソル?」



舌打ちを溢したアブソルはそっぽを向いて、うちから離れてピチューと同じように丸くなってしまった。ぽつん、部屋には確かに一人ぼっちじゃないのに、一人ぼっちの気分。



「…これから大丈夫、かなぁ」



呟いた言葉も誰にも反応されなくて、胸の奥に冷たい風が一吹き。自然と唇が尖り、少しだけ休もうとベッドに潜り込んだ。

冷たくて、清潔なベッドの香りに少しだけ切なくなった。





(得られなかったモノがそこにはあったから)

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