太陽と月
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ドアを開けると一人部屋よりも少し大きな部屋。ベッドと多分ポケモンが寝る用なのかな、小さな寝床もある。ホテルとまではいかないけれど色々部屋には本とか置いてあって退屈しなさそうだ。
「…うーん、一人暮らしっぽいぞ!」
座布団が丁度あったのでそれに座って、ピチューをそこにある小さな寝床に、そしてアブソルを出した。パカン、と小気味いい音の後に出てきたアブソルはやっぱり不機嫌そうで。
「…アブソル、そんな睨まなくても…」
『俺は、お前がトレーナーだとかまだ認めてねぇから』
「あ、はい…」
ばっさりとフラれてしまった。会話が続かないことに話題を捻り出そうとすると、もぞりとピチューが動いたのが見えた。あ、と視線を向けると尻尾を一度ピンと伸ばして揺らし、そしてようやくゆっくりと目を開いた。
アブソルもそれに気づいたのか、ピチューに視線を向けて、当のピチューは寝ぼけ眼で何度か目を瞬かせていて。あ、可愛いと思った次の瞬間に完全に目が覚めたのかまた警戒心を露にして臨戦態勢に入った。
『…どこだここ』
「や、ポケモンセンター」
『…あっそ』
納得してくれたのか、臨戦態勢を止めてちょこんと座ったピチューはそっぽを向いて、不貞腐れた様子。アブソルはため息をついてピチューから視線を反らしてしまった。これは気まずいぞ。とっても気まずいぞ。
話題、話題と頭を回して数分後、そういえば自己紹介ピチューにしてないなと思い付いてすぐさま口を開いた。
「あ、ピチュー!アブソル!」
『…あ?』
『…なんだよ』
ついアブソルも呼んじゃったけどまぁいいか。冷たい二つの視線には負けないぞ。
落ち着くように一呼吸おいてから、その視線と絡ませる。
「改めて…初めまして、“うち“の名前は陽佐、まだ全然わからないことばかりだけど…よろしくね」
『…、…俺は、っ………ピチュー、…だ』
「…うん?」
わざわざ種族名を言ってくれたピチューに首を傾げる。少し様子がおかしいようにも見えたピチューにわかってるよ、と言おうとしたところでアブソルが口を開いた。
『………う、ち?』
ぽつり、やけに抜けた声が部屋に響いた。
この自己紹介に何か引っ掛かることがあったのか、アブソルは怪訝そうな顔をしてうちの一人称を復唱した。ピチューもびくりと体を揺らして何かに気づいたのか少し首を傾げる。
一人称になんでこんな疑問そうな顔をされなきゃいけないんだろうとうちも首を傾げたところであ、そういえばと思い出した。確かに、あれじゃ誤解、いやそうじゃなくても誤解されやすい容姿、だったな。
「あー……」
『……おい、俺の質問に答えろ』
「はい?」
渇いた笑いが出てくると、さっきまで様子のおかしかったピチューが物凄く形容し難い顔で問いかけを投げる。
『お前は何だ、両性か何なんだ』
「りょっ…!? いや、いやいや!女!ごめん紛らわしいけど女!」
『…その面で?』
「うんごめんその若干憐れんだ目止めてくれ」
わかってる、わかってるよ生まれてこの方十五年、男とも女とも言われてきたけどちゃんと女です。そりゃ中性的とは言われてきたし女の子みたいに細くはないから別に間違われてもいいけど、さすがに両性なんて言われたら黙ってられなかった。トイレとかどうしてんのってつっこみたいわ。
ピチューが戸惑った目で見てくるのをさっと避けるとアブソルがバカにしたように鼻で笑っているのを見て、このやろうと口元がひきつった。初めて見せる笑いがそれか、それなのか。
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