太陽と月
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走る、走る。前だけを見て風を切って。あのR団はなんだったんだ、なんでこんなところに。敵意もなにも無かったけれどあれは駄目だ。無性に迫ってくる恐怖があった。
ピチューがもがいて抜け出そうとするけれど、強く抱き締めて離さない。
「っピチュー!ここから近道で町行ける!?」
『はぁっ!? ふさげんな、お前は俺をどうしたいんだ!』
「助けたいんだよ!」
『っ…!』
怒鳴るように叩きつけると押し黙ったピチューは睨み付けてきたもののあっちだ、と腕を伸ばして道を指し示してくれた。
だけどどう見たって木が敷き詰められたような獣道にもなってないそれに一瞬迷ったけれど近道なら、と地面を蹴って突っ込んだ。
色々なところを打ったりしたけれど、ピチューには傷がつかないように抱え込んでいたからピチューは無事に怪我も何もない、はず。
「はー…っ…つい、た…?」
『…ニビ、シティだ』
「…あぁよかった、無事で」
タンッと地面に足をつければ眩しい光が目に痛くて思わず目を覆った。
そして腕の中から出てきたピチューは本当に怪我もなく。ほっと一息をついて少し光に慣れた視界を見上げれば少し先に街が広がっていた。あれが、ニビシティ。
安心してちょっとだけ休憩しようと木に寄りかかるとピチューは直ぐ様腕の中から飛び出してしまって。また逃げられるのかと思ったらそんなこともなく、こちらを不機嫌そうに睨み付けている。
『…なんで、助けた』
「え…?」
『差し出せばよかっただろ、なんでだよ、なんで俺を、…俺は、手当ても助けも何もいらなかったのに…!』
歯を食い縛ったピチューは苦しそうにこっちも見上げてすぐに目線を反らした。なんで、ここまでピチューが苦い顔をしているのかわからないけど、問われたら答えは一つしかなくて。
「…ただ、助けたかったから、じゃダメかな?」
『それが、自分を傷つける、危険な目にあうとわかっていても、か?』
「…うん」
だって、助けるってことをするのなら危ない目にあうのだって当然だろうって思ってるから。
でもその答えが気にくわなかったのかピチューは一層声を低くして威嚇のようにうなり声を上げた。
『…お前は、俺が嫌がっても助けようとしたな。 俺が、お前を嫌ってもいいと、…そう思っているのか?』
「嫌われてもいいよ…危なかったんだから助けたいって思って、」
『っそれが嫌なんだよ! お前みたいに自分が嫌われてもいいからその時思った、最善の行動をしようとするやつが!そんな自己犠牲をするやつが俺は大っ嫌いなんだよ!』
言葉を遮って切り込むように叩きつけられた言葉に思わず肩が跳ねる。怒気のこもった声に驚くも、それはどこか別の誰かに向けているような、そんな気がした。
小さなピチューが更に縮まって、泣いているように見えたんだ。
『…俺は…っ…』
「っ!ちょ、っと!」
まだ何か言おうとしたピチューだったけど、ふらりと体をよろけさせて力尽きたように倒れてしまった。
慌てて抱き上げると完全に気絶してしまっていて。そういえばあの男が来たから手当てが出来なかったんだ。でも幸いにも街は目の前にある、そこでピチューを治してもらおう。
見た目通りに軽いピチューを抱えて、街へと歩き出す。何気なしにアブソルのボールを持ち上げて中を覗いてみる。
「…このピチュー、ほっとけないんだ」
それだけ言うと中にいたアブソルは言葉の意味を理解したのかしてないのかぷい、と顔を背けてしまったけれど何となく安心した。興味を持たれなくてもいい、アブソルを見てると安心できる。
またボールを戻して歩き出すと風が頬を撫でて少しくすぐったい。ふわりと柔らかく吹く風がさっきの出来事を連れてくる。
───似てる
微妙に動いた口から聞き取れた言葉。誰に、だなんてあの状況じゃ聞けなかったけれど。探るような、こっちを通して誰か遠い人を見ている目。内面を見られた気がして、嫌気が差した。
この世界に来てから、あの目はよく向けられたような。孤児院でも、さっきのR団の男からも。そして、このピチューからも。
「まぁ、いっか!」
それよりもピチューの治療だと切り替えて、ニビシティに向けて走り出した。
だって何も知らない、誰も知らないんだから、気にしたってしょうがないんだ。
かち合わない瞳
(嫌いだ、嫌い………嫌いなんだよ)
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