太陽と月
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唐突にがらりと口調だけでなく目付きまで変えた陽佐に驚きの表情を見せたピチューだがすぐに警戒の色を強めて体を強ばらせた。だがそれに臆することなく陽佐は軽い三白眼になってピチューを見据える。



『それがお前の本性か…!?』

「はぁ? 俺はさっさと手当てされとけって言ってんの、本性とかどうでもいい」

『っ…口調全然違うくせにどうでもいいわけあるか! 俺は人間の手当てなんか、いらねぇんだ!』

「目の前でぶっ倒れてるの見てほっとけっていう方が無茶だろうが!」

『だからそれが迷惑、』



陽佐とピチューが口論を始めた時、ガサリと草を掻き分ける音がした。敏感に反応したピチューは言葉を途中で止めてしっかりと地に足をつけ、臨戦態勢を取る。

遅れて反応した陽佐もしゃがんだまま後ろを振り向いた。



「…声がすると思ったら…なんや、……わぁ…あー…?」



現れたのは一人の男。どことなく方言混じりの口調の男は陽佐を見るなり首を傾げ、遠慮なく近づいてきた。

だが陽佐はその男を見て一気に警戒を強めた。拳を握りしめて、息を吐き出す。ギリリと三白眼が鋭くなった。 それを見て怯むことなく、逆に男は口元をつり上げる。愉快そうに、敵意のない笑みが不審さを増長させた。



「はー、その目ぇ…ええなぁ」

「あ…?」

「…ん? まぁ本人かはさておき…妹って聞いてたんやけど…男…」



ぶつぶつと呟いて眉を潜める男は何か疑問に思うところがあるのか、陽佐の顔をまじまじと見つめる。一瞬弧を描いた唇が紡いだ言葉に陽佐は口を開きかけるが、そんな場合ではないと直ぐに閉じた。そして不躾なそれに陽佐の警戒は最高潮に達する。



「っんの…!」



今にも噛みつかんとばかりに陽佐が体を動かそうとしたその時、空気を裂くような鋭い音が走った。陽佐の後ろで隠れていたピチューが電気を放ったのだ。電気は男の頬をかすり、痺れと僅かな鋭い痛みが男を襲った。

だが男はそんなピチューを見やり、そして陽佐を見てから目を細めただけで。



「…そのピチュー、こっちくれん?」

「はぁ?」

「生意気な面構え、気に入った。 …それだけじゃ悪いか?」

「…悪いに決まってんだろ」



男から持ちかけられた話を声低く切った陽佐だが、ピチューはもちろん手持ちでもなんでもない。ただ助けてもらっただけの間柄だ。そもそも先程まで口論になっていた。

だと言うのに陽佐がここまで警戒するのにも訳があった。



「…あんた、その胸のロゴ…R団だろ…!」

「へぇ、知っとんか」

「…だから、渡せない」

「力ずくで奪い取るって言うたら?」

「やって、みろよっ!」



すっと手を伸ばしてきた男からは僅かな威圧感。それを陽佐は即座に叩き落とした。そして男をギロリと睨み付け、一気に足払いをかける。その一瞬の動作に目を見張った男だが見事に体制を崩し、地に伏せた。

その隙を逃すまいと陽佐は即座にピチューを抱き上げる。全身に痺れが走ったが歯を食いしばって立ち上がり、振り返ることなくそこから逃げ出した。

ピチューが何か鳴き声を上げていたがそれは男に聞き取れるわけもなく。


草を掻き分ける音が遠くになっていく頃、残された男はあっさりと起き上がって歪んだ笑みを浮かべた。



「見つけた…あれか…。 …直情的なところ、そっくりや」



くつくつと笑う男は立ち上がり陽佐が去っていった方を愉快そうに見つめる。



「…早く強くなってくれや」



その言葉はどこに届くでもなく、空気に四散して消えたのだった。

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