太陽と月
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シン、と静まり返る辺り。切り取られたような世界でピチューと通じあっているような感覚、思い出されるのは揺れる黒髪。それが何を意味するのかなんてわからなかった。
「………ピチュー?」
『…チッ』
その硬直もすぐにピチューによって解かれ、ピチューは草むらの中に潜り込んで去っていってしまった。待って、と言う前に体に鞭を打ってピチューを追いかける。補整されている道からは離れているけれど追いかけないとって思ったんだ。
緑の中に目立つ黄色だけを見て追いかける。顔に葉っぱとか枝が遠慮なく当たって痛いしちょっと切れただろうけど気にしてられない、見失っちゃダメだ。風を切るように、というか風に切られてる気がしなくもないけれど。
そして、ザッザッと草を掻き分けていく内にピチューの色がふと消えた。
「え、っ!?」
忽然と消えてしまったピチューに思わず足を止める。荒い息を繰り返しながら辺りを見回す。木の上に逃げたのは考えにくい、音がしてない。
隈無く周りを見渡して早足で進んでいく。あの小さい体を見過ごしたらきっともうわからないだろうから、慎重に。
「…あ、」
そして少し先に見つけたのは黒い尻尾と黄色い体。ピチューだ。でもそれは動いていなくて、さっきまで逃げるようにしていたピチューを思うと少し違和感。
ゆっくりと近づいてみるとピチューはその小さな体を震わせ、地に伏せていた。
「っ、ピチュー!?」
『っせ…寄んな…』
慌ててピチューに駆け寄るとパチパチと電気を漏らして苦しそう。何で、さっきまでこんな様子どこにも無かったのに。どうしたらいいんだろう。
何も出来ずに立ち往生しているわけにもいかず、 おそるおそる手を伸ばすとバチッと電気が走った。刺すような痛み、反射的に手を離す。
『…触んな…!』
「で、でも苦しそうじゃん!」
『っせぇ!』
丸い目を尖らせて敵意いっぱいに睨み付けてくるピチューはやっぱり息も絶え絶えで。拒絶されても、放ってはおけなくて。どうしたらいいか、なんて聞いたらいいさ。適任がいるんだから。
ごくり、唾を飲み込む。緊張しつつ出したボールの開閉スイッチを押して、アブソルを出した。
薄く光った中からその形を作ったアブソルはピチューをちらりと見てからため息混じりにこっちを見た。
『…なんだよ』
「こういう時、どうしたらいいの?」
『…偽善か』
『っ…俺は助けろなんて、』
間髪入れずに飛んできた二つの言葉、二種類の鋭い目、あぁ嫌だ嫌だ。素直に受け止めて、望んだらいいのに。
どろりと、気持ちが沈む。噛み合わない価値観がどうにも気持ち悪い。意地があるのは、わかってるけど。
『…ピチューは、電気のコントロールが上手くない。あと何でか知らねぇが体力も今そんなに無いみたいだな、…薬もってんならそれ使え』
「………アブソル」
『別に、聞かれたから答えただけだ。…さっさと戻せ、…人間の気配が近づいてる』
「え、あ…わかっ、た」
苦虫を噛み潰したような表情を見せたアブソルをボールに戻してピチューと向き合う。アブソルの言っていた人間の気配がよくわからないけど、でも今は薬を出さないと。
リュックから薬を出そうと後ろを向いた時、バチバチと音が聞こえた。
『余計なこと、すんじゃねぇ…!』
ピチューの方を振り返ると、よろけた体に無鞭を打ったように弱々しく立ち上がっているピチュー。その姿は小さくて、でもどこか気丈に強く見えて。
『俺は、助けろなんて言ってねぇ!』
これ以上関わってくるなとばかりに唸るピチューに、視界が眩んだ。
「っ……せぇ、なぁ…」
『はぁ…!?』
「…るっせぇんだよさっきからよぉ…!」
あぁもう、ごめんね。
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