太陽と月
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トキワの森は日もうっすらとしか当たらないような薄暗い森で。細々と整備されているような道は確かに人が通っている痕跡がある。というか、トレーナーとかがいるんだっけここ。
「…いやさすがにここ一人は…」
自然の集まりだと空気が綺麗で、 透明な空気に飲み込まれそう、だなんて。ただ、一人で歩くにはちょっと暗いというか。 遠慮がちになってしまう。
でもアブソルが出てきてくれるとは思えないし、ということで一人で歩くことにした。正確にいうとアブソルはいるんだから一人じゃないし大丈夫だ。
薄く射し込む光、進む度に変わる光の模様。そこに自分の影が映り込んでまた新しい模様が作られる。自分で模様を自由自在に変えてる気分だ。
「………えへへ、森って楽しい」
ほんわかと心が軽くなる。そのまま下を向いて影を踏みつつ歩いているとゴチンッと木に頭をぶつけてしまった。結構盛大にぶつけてしまって鈍い痛みが頭全体に広がる。
「…脳細胞が…!」
頭を擦りつつ木を見ると中々太くて立派な木だった。これなら木登りできそうだな、とかふと思い付いて数秒考えた後、よいしょと木に手をかけた。
小さい頃はよく木登りをしようとしてずり落ちてたなぁと思い返すと今はずり落ちることもなくこんな簡単に登れるもんなんだと思うと成長を感じる。
丈夫そうな枝をつかんでぐいっと体を引き上げれば、綺麗な景色じゃなくて葉っぱが一面に広がっていた。自然の香りに眠たくなる。
「…ん?」
ふわり、一瞬香ったのは甘い香り。すん、と鼻を動かすとやっぱりそれは気のせいじゃなくて。あとこれは凄く幻聴であってほしい羽音が聞こえる。だけど段々と近づいてくる音に嫌な予感が加速していく。
ぶぅん、と一際強くなったのを察知した瞬間、木から飛び降りた。
ダンッと勢いよく地面に足をつけると痛みに似た痺れが襲いかかるけどそれに構ってはいられない。地面を蹴って、木から転がるように離れた。
「うぇっ、…スピアー…?」
離れた瞬間、木が裂かれるような音が耳をつんざいて思わず耳を覆う。後ろを振り返れば羽音を響かせてこちらを見るスピアーの姿が。当たり前だけど初めて見る。針が、針が。針に刺されたら貫通しそうで怖いんだが。
「…えーっと、」
見つめ合うこと数十秒、冷や汗すら出てきた。というかスピアー無言か、何か話してくれたらいいものを。じわじわと募る焦燥感に喉が渇く。
『………ここは俺の食事場所だ!』
「は!?」
食事場所って何、と口に出す間もなく針を突きつけるためなのか、突撃してきたスピアーから逃げるために咄嗟に木の後ろに隠れる。あれ、なんかポケモンから逃げてばっかだな。
そんな一瞬の隙が命取り、すぐさま回り込んできたスピアーとまた目が合う。昆虫特有の目の形とか、どこに焦点あるのかわからないそれに射ぬかれゾッと背筋が震えたと同時にズルズルと腰が抜けて地面にへたりこむ。
いや、腰抜けちゃ駄目だろこれ。
「えーっと、スピアーさん?」
『…でもこの人間危害くわえたわけでもないし…』
おそるおそる話しかけると何やらぶつぶつと一人言を漏らすスピアー。よし、いいぞそのまま立ち去ってくれ。いけ、行くんだ。虫は嫌いじゃないし寧ろ好きな方だけどサイズが規格外すぎてちょっとね、腰がね。慣れたらこんなこともなくなるだろう。
まだ一人言を呟き続けるスピアーに首を傾げているといきなり首から少しだけ離して針を向けられ肩が跳ねた。
『…よし、少し驚かせてからにしよう』
いやいや待って、待って。そんなのいらないから、うっかり刺さったりなんてしたら出血過多になっちゃうかもしれないから。
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