太陽と月
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まだ朝日が昇って間もない頃、それはいつもなら余裕で寝ている時間に優しく起こされた。



「陽佐さん、おはようございます」

「お、おはようございます…」

「朝早くにすみませんが、お話があります」



怜さんが淡々と告げてくるけどまだ全然頭が回らない。今凄く眠たいし二度寝したい。でも怜さんが開けたと思われる窓からは白んだ光が射していて寝るに寝られない。

重たい体に鞭を打って体を起こすと怜さんがこっちに目線を合わせていた。



「…陽佐さん、貴方はこれからどうされるおつもりですか?」

「…はい?」

「ここに留まるのか、それともトレーナーとなり旅をするのか」

「………へっ?」



待って変な声出た、じゃなくて二択しかないのか。いやそりゃそうかこの世界ってほとんど旅してるもんな。あ、凄い一気に目覚めたぞ。

完全に開いた目は怜さんを認識する。旅か、留まるか。多分楽な方は決まってる、留まる方。この世界のことを何も知らないのならここに留まって教えてもらうのも一つだとは思うけど。でも、それってつまり。

…あぁ、じゃあ答えは簡単だった。



「怜さん、…えっと…泊めてもらってありがとうございました」

「…はい」

「怜さんにはほんと、色々お世話になって…見ず知らずなのにここまでしてもらえて、お返しとか、何もできないままですけど…」

「はい」

「…旅、します」



ここに留まっちゃいけないんだ。それに、この世界に来たなら旅だよね、うん。

怜さんは僅かに微笑んで、わかりましたと言ってくれた。すると怜さんは一度振り返ってすぐにまたこっちを向いた、けど。その手にあるのは何やら荷物らしき物。



「…そう言ってもらえると思い、準備しておきました」

「え、…準備って…旅の?」

「はい、昨夜の内に。…簡単な物ばかりですが…後はご自分で必要な物は揃えて頂ければと」

「…どうして、ここまで…」



手渡されたバッグの中を見てみると、薬とかレトルトの食料とかが入っていた。しかもこのバッグ、というかリュック、生地めちゃくちゃしっかりしてるんだけど。明らかに高いやつだよねこれ。

ぐっぐっと引っ張ったりして強度を確かめてみるとわかる。絶対高い。え、こんなの貰っていいの?



「貰ってください、…理由は何れお分かりになられるかと」

「えっ、いや…でも、」

「お礼はそうですね、旅の途中にまたここに寄る機会が出来ると思うので…その時にでも」

「怜さん、結構強引に進めましたね」

「全部話してると時間が無いので…申し訳ありません」



頭を下げた怜さんに焦っていると、ドアに誰かのノックが。すぐに開かれたドアの向こうからは物凄く眠そうな天色さんの姿が。脇にはアブソルを抱え込んでいる。あ、アブソルの顔が何か色々諦めたみたいに目閉じてる。



「怜ー…連れてきた…」

「ご苦労様、さぁ外に出ますよ」

「えぇー…もう寝たいんだけど…」

「もう暫くの我慢です」



半ば無理やり天色さんを外に出した怜さんは身支度が済んだら出てきて下さい、とだけ言い残して出ていってしまった。

一気に静かになった部屋に耳鳴りに似た音が響く。眩しい朝日がちょっと空しかった。



「…着替えよ」



もぞもぞと服を着込んでいく内に気持ちが収まってくる。最後に上着を着ると自然と背筋が伸びた。よし、準備完了。

さっき貰ったリュックを申し訳なく思いつつも背負ってドアを開けると、そこには怜さんだけがいた。



「あぁ、天色には先に行ってもらいましたので…さて、行きましょうか」



そしてまたあの複雑な廊下を歩いてようやく外に出ることが出来た。朝の新鮮な空気が肺を満たす。



「遅いぞー…」

「はいはい、そろそろアブソルを下ろしてあげなさい」

「あ、ごめん」



すでに目が死んだ魚みたいになっているアブソルを下ろした天色さんは大きな欠伸をして今にも寝てしまいそうな雰囲気だ。



「…さぁ、陽佐さんとはここでお別れですね」

「本当、ありがとうございました…!」

「また会えると思います、その時まで…お元気で」

「アブソルもなー…あーねむ…」

『…最後ぐらいしっかりしとけよ…』



そっぽを向いているアブソルの雰囲気が和らいているように見えた。天色さんと何話したのかな。というかアブソルは着いてきてくれるのか?
じっとアブソルを見ると、アブソルじゃなくて天色さんが答えてくれた。



「あぁ、そのアブソル…いちおあんたに着いてくから…」

『!?』

「あ、そうですか…? 」

「そーそ、だから旅してやってー…」



ひらひらと手を振った天色さんに頷いてアブソルを見ると不満げだったけど何も言わなかったから一応安心、かな?



「…では、道中お気をつけて」

「はい!」



そして礼をした怜さんに習って頭を下げる。もうお別れって思うとちょっと寂しいや。でもまた会えるんだもんね?


始まった旅、一匹のアブソルと一緒にこれからカントーを回るって思うと不安もあるし心細いけど、ちょっと楽しみでもある。大きく鼓動を打った心臓が何故だか心地好かったんだ。





(お日様はどこの世界だって変わらない!)

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