太陽と月
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かわってこちらは天色とアブソル。不機嫌そうに睨み付けるアブソルと、前髪を下ろしているためにわかりにくいが、笑っている天色の二人が怜たちとは別室にいた。現在、天色とアブソルだけである。
暴れずにいるアブソルだが、敵意は消えずに天色の様子を伺う。
「いやーごめんね急につれてきてさぁ」
『なんのつもりだ…!それにお前……』
「あん? 何だ気づいてるの? ってもここじゃ戻れないんだけどさー」
はっきりと物を言わない天色にアブソルは苛立ちながらもどこか戸惑っている様子でもあった。
そんなアブソルにクッと喉だけで笑った天色は数歩近づいてそのまま腰を下ろした。そしてニィ、と悪戯に笑みを浮かべようやく確信の言葉を述べた。
「ご察しの通り、あたしはポケモンだよ。 その様子だと、擬人化知ってるんだねー」
『…当たり前だろ。 ここは、一体…』
「ここは孤児院…通称ラティルト。 簡単に言えばそうだな…捨てられた子だとかはぐれ者…独りになった子たちが集う場所だ。」
『……擬人化には条件があるだろ、…お前の言うことが本当なら…その条件を満たせない』
アブソルが条件、という言葉を口にした瞬間、天色が一瞬それに反応した。それを見逃すアブソルではなく、詰め寄るように一歩近づく。床に座っている天色では即座の反応は出来ない、硬直状態になるかと思いきやその予想は崩された。
「ははっ…なーんだ大体は知ってんじゃん? そこら辺は言うつもりはないけどね、…一応あたしらは条件を満たしてる。」
『は……?』
「まぁこっちのことはいいんだよ、それより…お前らのことだよ」
ワントーン低くなった声、それに思わず臨戦態勢をとったアブソルは毛を逆立てて威嚇をした。その威嚇に近くに置いてあったバットを片手に添えてアブソルに躊躇いなく向ける。だが天色自体からは敵意も戦意も感じられない、これは無意味なことだろうと判断したアブソルは舌打ちを一つ溢して自身も座り込んだ。
「…あの子とどういう関係なのか教えてもらおうか」
『あの人間か? …知らねぇよ気づいたらあの人間の持っているボールの中にいたんだ』
「へー…んで、お前はどうするの?」
『あ? どうするって、』
「あの子についていくのか、それともそのナリで人間に狙われながら生きるのか」
『っ!』
天色が言っていることは、アブソルの異色。銀に染まった角のことだろう。普通のアブソルとも、色違いとも異なるそれは悪どい考えを持つ人間にとっては格好の獲物だ。
今までアブソルが狙われて来なかったのかというと勿論そんなことはなく、今アブソルは憎しみを目に宿して双眼を尖らせている。
元よりアブソルという種族自体が忌み嫌われやすい種族でもあるため、そういった意味でもアブソルはかなり人間への嫌悪が激しいと言える。
「そりゃあ嫌だろうさ、でも誰かの手持ちになる方が安全性は上がると思うよ? あの子が非力じゃなければ、の話」
『…人間になんざ頼りたくもねぇよ。擬人化してるお前らにもな』
「はい出た人間嫌い特有のそれ! つーか誰が頼れだなんて言ったよ図々しい」
やれやれと首を振った天色は大げさにため息をついた。アブソルは人の形をとっている天色にも若干の嫌悪を覚えているが、元がポケモンということもありそこまで邪険に扱えないという何とも複雑な心境を持っている。
気まずそうにそっぽを向いたアブソルに天色はその頭を乱暴に撫でた。
『っ!? は、おいてめっ』
「まーなんとかなるって! 大丈夫、向き合えるから!」
力が強いのか、痛そうに顔を歪めるアブソルは耐えかねたのか鬱陶しそうに天色の手を振り払った。それに気を悪くしたわけでもなく快活に笑った天色は跳ねるように立ち上がった。
「まぁ後は気持ち次第だよ、あたしにゃ強制する力はないし? でもこのまま別れるのは勿体ないとは思うけどねー」
『…お節介か』
「なーんとでも? お前がここに来ないようにしてるだけさ」
『あっそ、……で、俺は今からどうしろと』
「あぁ、そこで寝てて。朝になったらまた迎えに来るから」
サラッと言った天色はそのまま部屋を後にした。残されたアブソルは微妙な顔をしつつも何もすることがないので舌打ちを溢して丸くなって寝る体勢に入った。
『…だけど俺は、兄貴を探さなきゃなんねぇんだよ』
小さく呟いた声は誰に聞かれるでもなく、そのまま消えてしまった。
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