太陽と月
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目の前で静かな説教が広げられている。怜と呼ばれた子と、天色と呼ばれた子。駄目だ頭が混乱してきて意味がわからない。



「さて、そこのお方。先程はこの子がご迷惑をおかけしました」

「あ、えっと…」

「それで、どうしてこちらに?」



説教も終わったのか、いきなり話しかけられて驚いた。物腰が柔らかいはずなのにうっすらとわかる威圧感。緊張する空気、ゆっくり息を吐いて向き合った。



「迷って、それでこのアブソルに案内してもったらここについたんだ」

「そうですか。…私は怜と申します。こちらは天色。貴方の名前は?」

「陽佐、だよ」

「…ありがとうございます、迷ったのでしたらこちらで一晩どうでしょう?」



僅かに微笑んだ怜さん。一瞬、空気が変わったのは気のせいかな。というか泊まらせてくれるのならありがたいんだけどなんだろうかこのトントン拍子。怪しいっちゃ怪しいんだけど。



「あはは…さっきはごめんねぇ? つい!」

「天色、少し静かにしていなさい」

「はぁーい…あっそこのアブソル!ちょーっとお前にも用があるから来なよ!」

『はぁ?なんで…』

「いーから!」



金属バットを持ちながら近寄ってきた天色さんは軽々とアブソルをよいしょと脇に抱えてさっさと歩いていってしまった。アブソルも抵抗できないほどにぽかーんとしていたのは面白かったけど。待て、アブソルって予想だけど人間嫌いというか好きではないよな。あれ、なんで。

しかもこれ、泊まるしか選択肢ないんじゃないの。

棒立ち状態になってる中、今度は怜さんが近づいてきて申し訳なさそうに額を押さえた。こうして見ると美人、だなぁ。



「天色がすみません、…どうされますか?」

「泊まろうと思います…」



苦笑しか返せない。本当に上手いこと状況を操作された様な気がする。でもアブソルも連れていかれちゃったしなぁ。ちょっと怖いけど仕方ないよね。

こちらへ、と怜さんに案内される。大きな正門をくぐって、揺れる黒髪を見ながら天色さんの髪色ってなんだったんだろうなと思った。



「陽佐さん、今日から暫くの間はここの院長が不在ですので私がその代理を任されています」

「へ、院長?」

「はい、ここは私たちの家ですが…世間的には違うのでしょうね」



少し前を歩きながら説明する怜さんの言葉は淡々としていて感情なんて一切わからなかった。

でも、これまた大きな玄関に手をかけた時に怜さんは振り返って、少しおどけるように招待の言葉を。



「ようこそ、孤児院ラティルトへ」



がちゃりと開けられたドアの先、踏み込めばきっと常識なんて通用しない世界。射し込んだ光が妙に眩しく思えた。





(今日は、三日月の夜だったんだ)

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