real time

はぁ、と呆れたような、軽蔑したかのようなため息が聞こえた。それだけであたしは反射的に肩が跳ねる。あぁ嫌われたくない、けど素直になれなくて子どものあたしはまだ全然千風の隣に立てなくて。だからいつもワガママばかりで不機嫌にさせる。

でもね、会えない時間が長いんだよ。それはあたししか困らないことだけど、あたしは傍にいたいんだ。傍にいたい、けど帰れと言われたらもうどうしようもない。

きゅっと唇を噛んでいると、千風のため息混じりの声が耳を掠めた。


「…黙って下を向きなさい」


その言葉はまるで魔法のようにあたしの体を操作して、言葉通りに自然としてしまう。言われた通り口を閉ざして下を向いて。怒られるのかな、愛想つかされたのかな。そんな不安も過ったけど、でも見えなくてもわかる千風の雰囲気は冷たいものじゃなかった。

そしてそれは一瞬、だけどあたしにとっては時間が止まったような出来事。


―ちゅっ


軽いリップ音が、あたしの額から聞こえた。


「……っ!?」


何をされたのかわからなかったのは一瞬で、理解した途端に額から甘い痺れが走ったみたいで。一気に顔に熱が溜まるのがわかった。息をするのも苦しいぐらい、心臓が煩い。早鐘を打つ心臓を押さえて、ようやく息を吐き出して顔を上げると千風はあたしに背を向けていた。



「帰りなさい」



その言葉に、あたしは素直に頷くことしかできなかった。あたしよりも大きな背中からは、何も読み取れなくて。

千風がどういうつもりでしたのかなんてわからない。きっと、わからせてくれない。でも、今だけは少し浮かれてもいいですか?なんて心の中でそっと問いかけた。

答えはもちろん、返ってこない。

2014/08/19 21:52

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