※R-15っぽい (いかがわしい安本安) 扇風機では払いきれない暑気に茹だる三十八度の部室で、俺は実験机の上、安田に組み敷かれいていた。 珍しく雲ひとつ浮かばない青天。いっそ外が明るすぎて、部室は一段も二段も暗く感じる。窓の外から運動部員たちの声と、蝉の鳴き声が聞こえているのがなんだか滑稽だった。 俺を見下ろす安田は、俺よりもずっと驚いた顔をしていた。戸惑ったように揺れる瞳、その奥に燻る情欲、のようなもの。 そんな吹けば飛ぶような均衡を破ったのは、俺の方だった。 「――男に欲情するなんて」 へんたい、 襟首を掴んで、耳元に吐息ごとねじり込むように囁くと、相手の呼吸のテンポが一際上がった。 ほんとう、簡単なやつ。 汗ばんだ首筋に纏わりつく髪が鬱陶しい。 俺が不快に眉根を寄せたのをどう勘違いしたのか、相手ははあ、と一際大きな息をひとつ吐いて、口づけをいっそう深いものに変えた。 はじめこそ遠慮がちに唇を啄ばんでいただけだった相手は、俺の抵抗がないのをいいことに、次第に深く俺の唇を侵した。相手の舌が口内を這いまわるたび、ちゅくちゅくと厭らしい音が鳴る。 机の上に仰向けに倒されているので、重力に従って混ざり合った唾液を嚥下する羽目になる。その息苦しさに、俺は相手の胸元を思いきり叩いて、むう、とくぐもった非難の声を上げた。けれど相手は俺の意図には微塵も気付かず、傍目にも分かるほど頬を上気させて俺の唇を夢中で貪っている。恍惚とした表情に無性に苛々して、俺はその舌先に思い切り歯を立ててやった。 「〜〜ッ!!」 ガチッという音とともに身体を跳ねさせて、勢いよく身を引いて口許を手で覆う相手。その挙動が思いのほか可笑しくて、俺は荒い息のまま切れ切れに笑った。 「あ……っにすんら、れめえ!!」 「あ、は、ちょっと、やだ、苦し、」 いまいち呂律の回らない発音で怒鳴るのがまた滑稽で、俺はますます笑い転げる。 相手はそんな俺の様子を口許を押さえたままじっと睨んでいたが、再びこちらにのしかかって、俺の両手首をひとまとめにして机に縫いつけた。ふうふうという手負いの獣じみた息遣いが俺の肌に纏わる。その感覚にぞわ、と身体を震わせている間に、相手は先ほどよりも乱暴に唇を押し当てた。そのまま無理矢理口腔に侵入した相手は、性急に俺の舌を絡め取る。 「っ……んんっ」 やたらと歯ががつがつ当たるのは意趣返しのつもりだろうか。そっちがそういうつもりならば、と獲物を待ち構える肉食獣のような心持でいると、不意にざらざらした舌先の感触とともに、口内にぴり、と錆くさい鉄味が広がった。 (――あ、さっきの……) その瞬間、ぞくぞくと電流のような感覚が背筋を走って、俺は思わず身体をよじって吐息を漏らす。 (これ――血、だ) 俺はひどく興奮して、途端に息が上がるのを感じた。 舌先で夢中になってその味を探し求めながら、俺は安田のDNAの螺旋を思う、または、俺の中には一切含まれないOO型の劣性遺伝子を思う。 「んぅ、は、ぁっ……あ、っ」 融け合って、混ざり合って、穢されて。 やがて俺を構成するすべてを壊して台無しにしてしまえばいいと、熱に浮かされた頭で馬鹿馬鹿しいことを思った。 触れ合う器官がどこもかしこも熱い。俺のあからさまな反応に気を良くしたらしい相手が、ちら、と瞳の奥だけで笑うのを見て、俺は再び傷口を探し当てて思い切り噛みついてやった。 ひとりもふたりも混ぜあえる by nostalgia (...Thanx 3000) 20110407 (back) |