(藤→本で藤くんと誰か) 「お前って意外な奴とつるんでるよなあ」 「……ああ?」 出しぬけにそんなことを言われて、俺は思い切り怪訝に表情を歪めて振り返った。 そこに立っていたのは、ついさっきまで一緒にグラウンドを走り回っていたサッカー部員だった。 見覚えのある顔。たしか、こいつからも何度か助っ人を頼まれたことがあった、気がする。 同級、他クラス、サッカー部……名前なんつったっけ。 束の間のチームメイトのよしみで俺はいつもより長い時間をかけてそいつの名前を思い出そうとしたが、結局諦めてあー、と言葉を濁した。 というより、元々それ以上の情報がインプットされていなかった気がする。徒労。 「ンなことねえだろ、別に」 無難にあしらおうとした俺の努力もむなしく、相手は俺の横に回り込んで並んだ。 「いやいや、ほら、なんつったっけ、あの秀才くん……ヨシモト? こないだ一緒に喋ってただろ。超意外」 「……誰それ」 「うわ、ひっでえな、お前」 いやいや、本気で誰だっての。 なんだか面倒なことになる予感が芬々として歩みを早めた俺に、相手はなおも食い下がる。ああ、くそ、めんどくせえ。 「な、ああいう奴ってさ、普段どんな話すんの? やっぱベンキョーとか、そういう系?」 「……別に、フツー」 「えー、でもさあ、ぶっちゃけ話とか合うのかよ?」 「………、」 まあテストんときとかは重宝しそうだけど、と相手が笑ったところで、俺は深々と溜息をついて歩みを止めた。相手も立ち止まって、不思議そうにこちらを窺う。 ――こういうとき美作がいれば、俺がこんなことする必要ねえんだろうな。 不意にそんなことを思ってしまって、なぜだか無性に苛々した。 (苛々? ……何に対して?) はた、と自問してみるが、感情の出所は既に霧がかかったようにもやもやとして判然としない。くそ、何だ、これ。 顔を上げると、相手はちっとも事態を分かっていない能天気な表情で、俺の言葉を待っていた。……そうだ。そもそもこいつが全部悪いんじゃねえか。 難しい方は早々に諦めて、俺は目先の簡単な方を選択して睨みつけた。苛立ちを丸ごとぶつけてやるつもりで、投げやりに口を開く。 「あのなあ、俺はテメーみたいな奴よりあいつの方がよっぽど、」 そこでちょっと迷ってから、 「……好きだけど」 小さくそう言うと、相手はぽかんと口を開いて俺をまじまじと見つめた。さっそく言わなきゃよかった、と後悔が押し寄せてきたが、もう遅い。 相手はそのまま立ち尽くしているので、俺はこれ幸い、とばかりにそいつを置き去りにして、足早に校舎の角を曲がった。そして相手から見えなくなったところで、一気に駆け足に切り替える。……顔に血が昇っているのが自分でも分かった。 ――ちっくしょう、何つー恥ずかしいこと言わすんだ! 誰にともなく悪態をついて左手で顔を覆うと、案の定、触れた頬は嘘のように熱を持っていた。 例えばこんな始まりだったら by 首路 …実は軽部くんで軽→藤→本だったりしたら俺得 20111018 (back) |