どうかお伽話と同じような結末を



 もしも小さい頃読んだ絵本の中の王子様が現実の世界に出てきたとしたら、それは間違いなく彼のことだろう。彼、越前リョーマは一年生にしてあのレギュラーメンバーと方を並べ、数々の試合で相手を打ち負かしている。まわりからはテニスの王子様と呼ばれている。また、ルックスも文句なし、そのハスキーボイスで名前を呼ばれようものなら気絶する女の子は多いだろう。
 そんなカッコいい彼が王子様ならお姫様はもちろんこの私ね。顔はまあまあいいと思うし、今までで一応告白されたことは何回もある。越前君とは今同じクラスだし、チャンスだっていくらでもある。この間だって越前のシャーペン拾ってあげたりもした。まだ会話といった会話はないけれど、頑張っていればいつか彼は振り向いてくれると信じてる。私はきっと越前君以外の人に恋に落ちるなんてことはこの先絶対ない。彼の隣をゲットする女子はこの私しかありえない。

「あ…!」

 帰り際に越前を見つけた。なんてラッキーなの。しかも一人。このまま一緒に帰ったりしちゃおうかな。越前君って今まで女子といるところなんか見たことないし、きっと私が初めてになれるかもしれない!

「越前君!一緒に帰…ろ…え?」

 声をかけようとして、越前君の口角が少し上がったと思ったら、長いみつあみをした女の子が越前君のもとに駆け寄ってきた。私の声は越前君の「遅すぎ。心配かけないでよ」の声にかき消されてしまった。クールな越前君がそんな優しい言葉をかけるなんて聞いたことがなかった。男子にすら冷たいのに、なぜこの女の子にはそんな甘い声で、優しい言葉を口にするのだろうか。女の子は「ごめんね」と言って越前君に頭を撫でてもらっている。ああ、なんて可愛い女の子なんだろう。越前君はああいう子が好きなのかななんて思ったところで、ああそうかとすべてを悟った。
 あの女の子と越前君はきっと恋人同士だ。越前君が王子様だったらお姫様はあの女の子だ。

―お姫様は私じゃない

 分かってる、分かってるのに何で涙が止まらないの。越前君が竜崎さんを好きって分かったから?私がどんなに頑張っても越前君に好きになってもらえることなんてないから?どっちも正解。私はたった今、失恋したのだ。前まで近いと感じていた私の王子様は一瞬で遠くへ行ってしまった。もしかしたら最初から近い場所にはいなかったのかもしれない。きっと私の独りよがり。なんて悲しい結末だ。物語はハッピーエンドで終わるのに、どうして私のお話だけはハッピーエンドではないんだろう。越前君…好きだったなあ。
 ちらりと二人を盗み見ると、笑いあっている姿はとてもお似合いの王子様とお姫様だと思った。








あとがき
第三者視点でリョーマ君のことが好きな女の子にしてみました。前は桜乃ちゃんが好きな男の子を書いたので。第三者シリーズは私の好物で、ついつい書きたくなってしまうんですよね。これからもこのようなシリーズは多々あると思いますが、お付き合いいただけたら幸いです。


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