ぼくは恋のキューピッド



 僕は今改めてこう思った。

 ーなぜ青学の女子たちは3年間リョーマ君のことをクールで王子様みたいなんて言っていたんだろう。



 ここはリョーマ君とリョーマ君と結婚した竜崎さん(今は越前だけど)の家。
 昼間っからリョーマ君はお酒を飲みながらぐちぐちと言っている。どうやら竜崎さんは今親友の小坂田さんと一緒に買い物に行っているらしい。だからつまんないと言って僕が呼びだされたわけだけど。リョーマ君はさっきから「何で俺より小坂田なわけ」だの「今日はせっかくの休みだからずっとベッドで過ごそうって言ったのに」などと訳の分からないことばかり言っている。お酒も入っているせいか、中学時代のリョーマ君とはだいぶ違ったリョーマ君だった。ま、竜崎さんの前ではいつもこんななんだろうけど。結構僕の前でも竜崎さんのこととなるとこんなだったけど、でも本人はずっと隠してたらしい。本人曰く「こんなとこを見せるのは桜乃だけだから。他のやつになんて見せるわけないじゃん」らしい。今のこの目の前にいるリョーマ君を元青学の女の子たちが見たらどう思うだろう。

「桜乃まだ帰って来ないの?まさか浮気とかじゃないよね?」

 竜崎さんは絶対にそんなことできないと思うよ。相手がリョーマ君じゃなおさらね。したところで相手の人、きっとすごいことされるんだろうなぁ。確実に生きてはいられないと思う。うわー今すごいこと想像しちゃった。やめよう、やめよう。
 というように、どうやらリョーマ君は今でも相変わらず竜崎さんを溺愛してるらしい。それだけはきっと死んでも変わらないんだろうなと思うと笑いが込み上げてくる。あの王子様って呼ばれて、クールで口数が少ないリョーマ君が一人の女性にここまでベタ惚れだなんて誰が聞いても笑えると思う。でも、僕からしてみればすごく嬉しい。リョーマ君はずっと恋なんてしない人だと思ってたから。だけど、リョーマ君も恋をすることでもっとテニスを頑張ろうと思ったはずだし、今の幸せもあるんだと思う。

「よかったね、リョーマ君。竜崎さんと結婚できて」
「いきなり何?俺と竜崎が結婚なんて生まれたときから決まってるし。そういう運命だったんだし。ていうか何?カチローも竜崎狙ってたわけ?」

 あーはいはい、そうですか。リョーマ君らしい。祝福して損した。だいたいもし仮に僕が竜崎さんを狙ってたとしてもたぶん一瞬で諦めてると思うよ。だってリョーマ君相手なんて敵うわけないし。もうそんな拗ねた顔しないでよ。子供みたい。僕も好きな人がいるって忘れてるわけじゃないよね?そりゃあ竜崎さんみたいに可愛くて優しくて天使みたいな人が奥さんだなんていいなって思うよ。でも、僕は心からリョーマ君を応援してたんだよ。竜崎さんにも幸せになってほしかったしね。それにリョーマ君と竜崎さんって誰から見てもお似合いの夫婦だよ。

「大丈夫だよ。竜崎さんにはリョーマ君って、ちゃんと分かってるからね。」
「さすがカチロー。よく分かってるね。」
「僕は何年も前から二人を見てきたからね。」
「何それ。竜崎のことも見てたわけ?」
「竜崎さんのほうが先に好きになったと思われがちだけど、何気にリョーマ君のほうが片想い歴長いよね」
「…うるさい」

 拗ねてるリョーマ君を何度見たことだろう。竜崎さんに関することしかなかった気がするけど。
 と、ここでタイミング良くリョーマ君の携帯が鳴った。誰と聞かなくても竜崎さんだってことはすぐに分かった。なぜかと言うと竜崎さんからの電話だけ着信音を変えているからだ。話している間にも口元が緩んでるのを見て嬉しそうだなと思った。
 ここは気を利かせるところだと思って席を立った。

「じゃあ、僕はもうおいとまさせてもらうね」
「ずいぶんと気が利くじゃん。何か企んでるわけ?」
「ははっ、じゃああとで素敵なお返し考えておくから、よろしくね」

 なんてね。せっかく竜崎さんが帰ってくるんだからどうせこれからイチャイチャするつもりなんでしょ?僕は二人のことを応援してたんだから、邪魔するわけないじゃない。これからもずっと幸せでいてほしいだけなんだよ。二人が笑って過ごせますように祈ってるよ。

「リョーマ君、ただいまー!あれ、えっと…お客様が来てたの?」
「おかえり。遅かったじゃん。うん、まあね。」
「ごめんね。誰だったの?」
「さあね。俺たちの恋のキューピッドだって」
「え?キューピッド…?え?」
「さーて、俺のこと待たせたんだから覚悟はできてんだよね?」
「覚悟?なに…するの?」
「聞きたいの?聞きたいなら教えてあげるよ」
「い、いやっ!やっぱりいい!リョーマ君のバカ!」
「口の悪い桜乃にはおしおきが必要だね」

 カチローが帰ったあとの越前家はやはりというべきか、バカップル夫婦のイチャイチャが始まった。最初は抵抗していた桜乃も降参して夫であるリョーマの好きにさせてあげようと思ったんだろう。目を閉じて、覆い被さっているリョーマの背中に腕を回した。リョーマは口角を上げ、広いダブルベッドの上で桜乃をたくさん愛した。
 カチローの言ったとおり、この夫婦は末長く幸せに暮らすのだろう。








あとがき
カチローと絡ませてみるのも好きだったり。


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