いつの日か世界はピンク色で覆われるだろう



 いちゃいちゃ【男女がたわむれること。いちゃつくさま。】

 その言葉によく目を通してゆっくりと辞書を閉じた。この言葉は目の前にいるあのカップルにはぴったりの言葉だと思う。24時間365日いちゃつきあって、自分たちだけで楽しんでいるのならまだしも、片方は友人にのんきに惚気話を聞かせるために何時間も付き合わさせたり、わざとクラス内でいちゃつき皆に見せつけるようにする、しかも「ずっと一緒にいたい」とかなんとか言ってぴったりとくっついて離れようとしないからすごくやっかいだ。もう片方はあたしの大親友なだけに少し抑え気味でこっちからちょっかいをかけると顔を真っ赤にして恥ずかしがるが、超がつくほどの天然でじつは本人が気づかないうちに惚気話をしているというなんとも悲しい話だ。
 そんなわけで、あの二人はじつに迷惑なカップルだ。まあ、あたしの大親友が幸せになってくれてよかったけど。なにせ相手は学年一モテて、テニスが上手な越前リョーマ様なんだから。しかし、リョーマ様もリョーマ様で桜乃を溺愛しすぎ。というか、ラブラブいちゃいちゃはいいかげん他所でやってほしい。とにかくあたしらの視界に入らないように。だって、キスなんてもう何百回見たか分からないし教室のど真ん中で抱きあったり普通の人がすることじゃないだろ。少しは控えてほしい。てか、控えろ。

「なんで?俺はいつでもどこでも桜乃と一緒にいたいの。それに桜乃って抱き心地いいから抱いてるだけだけど?部活の疲れが一気に吹き飛ぶし。べつに見たくなきゃ見なければいい話じゃん」

 うわーそうきますか、リョーマ様。いいんですかそんなこと言って。あたしは桜乃の親友なんですよ。いざとなればリョーマ様なんてへでもないんですからね。今のうちに捨てられないように頑張ってくださいね。今すぐあたしが奪いにいきますけど。桜乃もあたしの方が良いに決まってます。リョーマ様はリョーマ様で一人でいてください。ずっと桜乃を独占して、最近は買い物にも行けてないんですよ。弟たちのお世話をしなくてもいい日でもあたしは寂しい一日を過ごしているんですから。
 って、もう向かう先は桜乃のもとへ、ですか。いいかげん暇さえあれば桜乃のところに言っていちゃつくの本当やめてください。言ってる傍からやるなんて何なんですか。桜乃もちゃんと抵抗しなさいよ。「嫌だ」って一言言わないと分からないわよリョーマ様は。嫌だって言ってもやめそうにないけど。とりあえず本当に心配だから桜乃が助けを求めてきたらいつでも助けに入る準備はできてるから。いつの間にか犯されてるってことにならないでね。ああ、心配。

「リョ、リョーマ君…恥ずかしいよぅ…」
「いいじゃん。誰も見てないって。桜乃顔真っ赤だよ?俺のこと、意識しちゃった?」

 何ですか、何ですか、何ですか、この二人の周りだけピンク色なのは何でですか。てか、皆普通に見てますよ。見ていない人なんか誰ひとりいませんよ。見たくなくても視界に入っちゃうものなんです。
 だいたい何でそういうところに自覚がないんですか。桜乃が恥ずかしがってるのを可哀相だと思わないんですか、このドS王子。

「うぅ…リョーマく…ん…もう、ダメ…///」
「何で?何がダメなの?」
「あの、ね。人前では…その…は、恥ずかしくて嫌なの…///」
「嫌…!?」

 あ、桜乃ナイス。今完全にリョーマ様はフリーズ状態。桜乃の「嫌」の気持ちがやっと今伝わったみたい。そしてこれは完全に桜乃の勝ちね。二人の会話から確かに「じゃあ教室ではできるだけしないようにする」という声が聞こえた。「できるだけ~ようにする」が気になったけど、そこはスルーすることにして。
 とりあえずこれでもうこのバカップルのいちゃいちゃっぷりを見せつけられずに済むわけで。同じクラスの人たちは皆一斉に笑みが零れ、中にはガッツポーズをしている人もいた。

「だけど、二人きりのときは何してもいいんだよね?」
「ふぇ!?」

しかし、クラス内ではやめると宣言してもこの二人のいちゃいちゃは世界が破滅しても止まらないのである。








あとがき
マシュマロみたいにとろけちゃいそう。


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