テニスログ | ナノ


部活の帰り、俺はあるケーキ屋へ足を運んだ。外から美味しそうなショートケーキ・チョコケーキなど俺が好きなものばかりあったから、気が付いたら店の中に入ってしまっていたんだ。


「うわー!なんて美味そーなケーキ!おじちゃん、これとこれとこれね!」


俺は今月のおこづかいを全部ケーキに費やした。お菓子ならくれる人は多いが、ケーキをプレゼントしてくれる人はいない。お菓子だけでじゅうぶんだとあきらめてはいたが、やはりケーキも食べたくなる。


「ちょーうめー!最高!」


俺がケーキを食べているまさにその瞬間だった。何気なく目をやったところにある女の子を見つけた。長いおさげの女の子。


「美味しそうなケーキ…あの…今日はなにがおすすめですか?」
「ん?今日はそのショートケーキだよ」
「あ、じゃあショートケーキ1つください」
「はい。まいどあり。カウンターあるから食べてきな」
「はい。ありがとうございます」


その女の子は真っすぐ俺が座っている方向へ歩いてきて、俺の隣へ座った。「隣、良いですか?」と律儀に聞いてくる。それからなぜか突然ケーキの味がよく分からなくなった。食べても食べてもとびきり美味しい!とは感じない。さっきまでは感じてたのに。なぜだろう。


ふと、隣のおさげの女の子に目をやった。彼女はケーキをひと口ひと口食べるごとに満弁の笑みで笑っていた。見てるこっちまで幸せな気分になれる。その笑顔が可愛くてなぜだかホッとしてなぜだか心臓の鼓動が速くなっていた。俺にも理由は分からない。でも、彼女に声をかけずにはいられなかった。


「おさげちゃん!」
「え?は、はい!えっと…私のことですか…?」
「そうそう!俺は丸井ブン太!シクヨロ!」


いきなり名前を言って彼女はびっくりしていたが、やがて笑って「竜崎桜乃です」と自分の名前を教えてくれた。それからどうしたか正直よく覚えていない。俺はもう天まで昇りそうな気分だった。前に幸村が教えてくれた恋。これが恋だって言うのならば、絶対に桜乃を手に入れてやる。




∴いちごのショートケーキ
(甘い甘い恋のはじまり)

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