テニスログ | ナノ


リョーマ君はとってもモテる。この間も同じクラスの女の子に告白されているのを目撃してしまった。私なんかに入り込む隙間はない。リョーマ君のテニスの試合が終わったときだって、たくさんの人がリョーマ君にタオルを渡しに行く。私もお疲れ様って言いたいのに、そんな勇気がなく、いつも指をくわえて見ているだけ。少しでもいいから、リョーマ君に近づきたいっていうのが、今の私のいちばんの願い。


(あっ…リョーマ君だ…!)


前方にリョーマ君発見。しかし、一人ではなかった。私が知らない女の子と一緒にいた。きっと違うクラスの子だろう。リョーマ君、やっぱりすごい人気なんだ。私はそっと立ち去ろうとした。しかし、思わぬことが耳に入ってきたので、とたんに足をとめた。


「ねぇねぇ、リョーマ君。私たち、恋人同士でしょ?なら、キスしてよー」


リョーマ君の隣にいた女の子の声だった。知らなかった。リョーマ君に恋人がいたなんて。辛くて、悲しくて、涙が出てきそうだった。私はいったんとめた足をまた動かし、校舎の方へ向かって、走った。その際に涙が溢れ出てきて、前が見えなくなってしまったけど、お構いなしにとにかく走り続けた。


一方桜乃が立ち去ったあとのリョーマたちの様子は。


「アンタ、うざい。恋人になんかなった覚えはない」
「えー?だって今日私の手紙読んでくれたんでしょ?」


確かに今日、靴箱に手紙が入っていたが、読まずに捨ててしまったため、内容は分からない。その手紙と何の関係があるんだ。


「リョーマ君、手紙読まないで捨てちゃったでしょ。あの手紙にはね、この手紙を捨てたら私と付き合ってねって書いてあったの」


そう言ってその女は俺が捨てたはずの手紙を手に持ち、俺に内容を見せてきた。確かに、その女が言ったとおりのことが書いてあった。でも、そんなことは関係ない。俺はこの女の顔も名前も知らなかったわけだし。そんなやつとは付き合いたくもない。


「…さよなら」
「ちょっと待ってよ!竜崎さんが好きなの!?」
「…は?」


びっくりした。こいつはいきなり竜崎桜乃の名前をだしてきたからだ。竜崎は俺のテニス部の顧問、竜崎先生の孫で、女子テニス部に所属している。ときどき、テニスを見てあげたりもする仲だが、どっちかが告白したり、付き合ったりしている仲ではない。


「…私、知ってるのよ。ずっとリョーマ君を見てきたんだから!リョーマ君、竜崎さんに対してと他の女子に対しての態度がまるっきり違う…。」
「…だから何?」
「リョーマ君は、竜崎さんのことが好きなんじゃないかって…」


俺が竜崎のことを好き…それは正直自覚している。竜崎はそこらへんの女とは全く違う。人一倍努力家で素直で優しい。チャラチャラしたやつとは大違いで、心からテニスが好きなやつだ。そんな竜崎を見ているうちに、俺は竜崎に特別な感情を抱いた。


「だったら何?アンタには関係ないじゃん」
「…っ!」


まとわりついていた女は顔を真っ赤にして立ち去って行った。
一安心し、俺も校舎に戻った。そしたら、誰かの泣き声が聞こえてきた。それが竜崎のものだったことはすぐに分かった。竜崎は誰もいない教室で、一人縮こまって泣いていた。


「…竜崎」
「…リョ…マ…く…ん…」
「どうしたの?こんなところで」


竜崎は少し黙ってから、なんでもない、と答えた。なんでもないわけがない。なんでもなかったらこんなところで一人で泣かない。俺は静かに竜崎の隣に座り、手を握りしめた。


「…リョーマ…君…っ、ふぇっ…」
「…どうしたの?」


桜乃はわーっと泣きだした。そして、リョーマの胸の中で静かにここで泣いていたわけを話した。それを聞いたリョーマは目を丸くして、誰も見ることができない優しい笑顔を桜乃だけに見せた。


「…そんなの、ただの勘違いじゃん」
「…勘違い…?」
「そ。俺に恋人なんかいない。いるとしたら、それは竜崎だけだよ」
「…へ?」


桜乃は変な声を出してリョーマを見上げた。リョーマはゆっくり桜乃を抱きしめて、耳元でそっと囁いた。それを聞いた桜乃はまた涙を流して、リョーマにしがみついた。


「…俺の好きなやつは竜崎だけだよ」


誰もいない教室では男女二人が寄り添った影が見えていた。窓から見えた夕焼けはとても綺麗で、二人をそっと見守っているようだった。




この恋、迷宮入りにつき

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10000hit企画小説。瑠生様へ
title by レイラの初恋



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