「え…うそ…」


ああ、誰かこの状況を今すぐ説明してください。そして、どうにかしてください。今すぐ。

あたしは昨日仕事から帰って風呂に入ってすぐに寝てしまったらしい。
確かにあたしの家にはあたし以外誰もいなかったし、布団に入るとき、あたししか入っていないはず…だけど。
朝目を覚ましたらそこには黒髪で整った顔がドアップでうつっていた。
そして必死に考えた。どうして隣にグレイがいるのか、を。
グレイは今だにぐっすりと寝ていて、起きる気配が全くない。


「…どういうことよ…」


もうため息しか出てこない。びっくりして心臓が止まるかと思った。
ていうか、ひとり暮らしのレディの家に不法侵入するだけでなく、布団の中にまで入ってくるなんて、ありえない。
あたし…女として全く意識されてないのかな…なんて思っちゃったりもする。


「もうっ、寝てるときはこんなにカッコイイのに」


ううん、違う。グレイはいつだってカッコ良かった。
いつもピンチのときは助けてくれて、優しい眼差しを向けてくれて、一緒に笑ってくれた。
そんなグレイだから、好きになったのよね。

あたしはグレイの髪に手をかける。サラサラしていて気持ちいい。
今度は頬に手を移動させる。男とは思えないほどツヤツヤしていて触り心地が良い。
これは正真正銘あたしが大好きなグレイ。
カッコイイグレイ。優しいグレイ。そして、大切な…グレイ。


「ん…んあ?ルー…シィ…?」


ゆっくりとまだ眠たそうに瞳を開けるグレイは、あたしの名前を呼んだ。


「グレイったら…」


次の言葉を言おうとしたとき、視界が一気に揺れた。何が起きたのかさっぱり分からない。
思わずぎゅっと瞑っていた目を恐る恐る開けてみたら、そこにはグレイのフェアリーテイルの紋章があった。
つまり、あたしは今グレイの胸の中にいるってわけで。グレイに抱き締められているという形になっている。


「え…ちょっ…」
「ルーシィ…好きだ…」
「…へ?」


抱き締められている中での突然のグレイの告白。
あたしからはグレイの表情は読み取れなかったけど、なんとなくグレイの体温がいつもより熱いってことが分かった。


「ルーシィ…」
「グレイ…」


そのあとすぐにあたしの意識はなくなった。グレイの胸の中で眠るのは、とても気持ちが良かった。何だか守られているみたいで、安心した。

次に起きたときはもう昼過ぎていて、たぶんギルドではあたしとグレイが来てないってことでちょっとした騒ぎになっていると思う。
グレイと顔を見合わせたらなんだか顔が急に赤くなっちゃって、体温も上がった。
グレイの方もあたしに負けず耳まで赤かった。


「る…ルーシィ…その…」
「好き」
「…は?」


勇気を振り絞って言った一言だった。
グレイはしばらくポカンとしていたが、またいつものように笑うと、愛してる、と言って抱き締めてくれた。
グレイの胸の中はやっぱり落ちつく、最高の場所。
あたしは少し控えめにグレイの背中に腕を回した。そのとき、ちょっとだけ抱き締められる力が強くなったのは気のせいかな。











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