「うわー!すっげぇ美味そう!!!」


今日は12月25日、クリスマスの日だ。
真田副部長に必死に頼み込んで二ヶ月間一度も朝練に遅刻しない、寝坊しない、テストで赤点を取らないという条件でこの日の部活はOFFにしてもらった。
あとが怖いが今はそんなことはどうでもいい。すべては桜乃と過ごすため。
それよりも今、俺は桜乃の家へ来ている。桜乃の両親は温泉旅行の真っ最中。夜中女の子ひとりは危ないということで桜乃の両親からも許可をもらっている。
もちろん手を出すことは許されていないが、二人きりでいられるなら多少は我慢できるかもという覚悟で朝8時に苦手な早起きをして桜乃の家にお邪魔した。
インターフォンを鳴らすと桜乃が笑顔で迎えてくれて俺はその笑顔に早くも我慢の限界がきそうになるのを必死で耐えた。

居間へ入るとテーブルの上には大きいチョコレートケーキが置いてあった。
思わず出てしまった言葉がそれだ。そんな嘘のない言葉と表情に桜乃は満足したのか、にこにこと笑っていた。


「これ桜乃が作ったのか!?」
「はい、美味しくできたかどうかは分かりませんが…」
「そんなことねーって!絶対上手いって!」


皿の上に乗せられたケーキをフォークで口に頬張った。
俺好みの甘さに仕上がっていて、さらに苺の甘さが全体に広がる。こんなに美味いケーキは食ったことがない。


「さ、桜乃!これ、何いれたんだ?すげぇ美味ぇ!!」
「本当ですか?嬉しいです!普通に本どおりに作ってみただけですよ?」


ふふ、と笑いながら桜乃は言う。
でも、本どおりに作ったってこんなに美味いケーキは作れない。
前に一度姉貴が作ったケーキは本とぴったり同じ分量だったのに、それよりも桜乃のケーキの方が100倍美味い。


「あ、でも…」
「ん?」
「赤也さんのために作ったケーキですから、愛がたくさん詰まってます…!///」


うわあ、何この可愛いセリフ。俺を試してるんですか?そうなんですか?桜乃さん。
我慢だ、俺。我慢だ、俺。
でも、そっか。桜乃が俺のために作ってくれたケーキだから、俺への愛情たっぷり詰まったケーキだから、こんなにも美味いのか。


「ふふ、ここにケーキ付いてますよ」


俺の口元に付いたケーキを桜乃は人差し指ですくって自分の口の中に入れた。
「本当だ、美味しい」なんて無邪気に微笑んでいる。
ぴくん、身体が勝手に反応してしまう。桜乃のほうに出そうになる手を必死でひっこめる。
恋人がいる人なら誰もが憧れるであろう頬っぺについた食べ残しを手でとってそれを食べる、そんな夢のようなシチュエーションを俺は今達成した。
おそらく桜乃は今のその行動がどれほど俺を興奮させるのか知らない。


「…桜乃」
「はい?」


ごめんなさい。桜乃のお父さん、お母さん。竜崎先生。娘さんの全てを俺にください、いや、いただきます。
桜乃が可愛すぎるんです。無意識、無自覚でやってるからなお可愛いんです。もう我慢の限界です。
これで言い訳は全部です。お説教はあとでちゃんと聞きますから今だけは、すんません。


「桜乃を食べてもいい?」
「はえ?」
「桜乃を食べたい、桜乃をちょーだい」


甘いケーキを食べながらその甘い唇に噛み付いた。












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