「うっおー見ろよ、ジャッカル!あそこの店、超並んでんじゃん!あそこってそんなに人気店だったっけ?」
「ん?あの店…今まではあんなに並んでなかったよな…何か変わったのか?」
「だよな!ちょっと行ってみようぜぃ!」
「はっ?ちょ、おいっ!まじかよ!あんなに並んでるのに…ちょ、待てって!」


丸井の膨らませている風船ガムがパチンと言ったかと思ったら目をまんまるくして前方にある喫茶店を見つめた。
それにつられてジャッカルも同じ方向を見たところ、いつもはカンコー鳥が鳴いているほどの喫茶店が今日に限っては満員になっており、外までいっぱいの行列ができていた。
丸井はすぐさま嫌がるジャッカルを引きずってあの行列を並ぶべく店まで向かった。


「結構並んでんなー」
「もう、帰らないか?こんなに並んで…んっ?」
「ん?どうした?ジャッカル。なんか珍しいもんでも…あっ!」


扉の隙間から見えた少女。
その少女はヒラヒラした短いスカート。フリルが付いた袖。頭には可愛くデザインされたカチューシャ。いわゆる、メイド服というものを着ていた。
たかがメイドなら彼らは声をあげる必要はなかったであろう。
けど、そのフリフリのメイド服を着ていたのは、二人がよく知っている、杏知り尽くしている大事な少女、竜崎桜乃であった。


「ささささ桜乃ちゃん!?」
「さ、桜乃ちゃんがメイド服でどうしてこんなことを!?」


丸井とジャッカルは並んでいることさえすっかり忘れてしまい、大勢の客を突き抜けて店の中へと入って行った。


「「桜乃ちゃん/おさげちゃん!!」」
「ひゃっ!ま、丸井さん、ジャッカルさん!?」


いきなり自分の名前を呼ばれた桜乃はびっくりして、大きな瞳をさらに大きくして二人の名前を口にした。
そして、今の自分の格好を見られてしまった恥ずかしさからかすぐに俯き顔は林檎のように真っ赤になった。
メイド服に顔を真っ赤にした可愛い桜乃を周りの男たちは黙ってるはずもなく、何やら「あのメイドまじで可愛いな」とか「彼女にしてー」などと騒いでいる。
桜乃ことを男たちにそんな目で見られているなんて我慢できない丸井とジャッカルはすぐさま汚いものを見るように冷たい視線を男たちに浴びせた。
男たちはいきなり悪寒を感じて、恐ろしくなり一瞬で自分の口を塞いで先ほどまでとは打って変わって静まり返った。


「桜乃ちゃん!こんなところで何してるんだよぃ!!」
「そうだぞ!な、なんでメイドなんかに…!」
「ま、丸井さんとジャッカルさんこそ…」


桜乃の格好を見て鼻血が出そうになった二人。そのくらい桜乃のメイド姿は色っぽくて刺激があった。


(お、おさげちゃんのメイド服…///)
(に、似合ってんな…///)


しばらく桜乃の姿を見とれていた二人はやがて自分らの世界から帰ってきて、改めて桜乃の顔を見て微笑んだ。
それがただの"微笑み"ではなかったため、周囲にいた人たちは一瞬ビクッと身体が反応したが、当の桜乃はそんなこと一ミリも分かっていなかったため、きょとんとしていた。
そして丸井はひょいと桜乃を持ち上げ、ずんずんと店内の奥へ入って行く。


「ぶ、ブン太さん…!?」
「お、おい!何やって…!」
「桜乃ちゃんは今日は俺のメイドなんだぜぃ?いっぱーい楽しまなくちゃな!」
「ふぇ、ええ!?///」


もはやこの現場を目撃していた人の中には誰も口出しをしようとする者はいなかった。
丸井の親友のジャッカルでも暴走している丸井に口出しすることはできなかった。
口出しをしようものなら次の瞬間何をされるか分からないからだ。客、店員はおろか、店長までもがただ黙って見守っているだけだった。
ジャッカルは少しだけ丸井が羨ましいと思いつつそっと桜乃に手を合わせてすまん、と呟いた。




メインは激甘ショートケーキでございます



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