「アンタ、邪魔なんだけど。どっか行ってくんない?」
「それはこっちのセリフだ。今すぐこの場から消えな」
「ふ、ふぇぇ…」


ただいまこの場は修羅場です。
右に青学1年越前リョーマ、左に立海2年切原赤也がいる。
その真ん中にいるのは、両側にいる二人が愛して止まない青学1年の女の子、竜崎桜乃。


「桜乃はこれから俺とデートなんだよ!お前は帰って寝てろ!」
「やだ!俺は今から竜崎のテニス見てあげんの。アンタこそいつも通り一人でゲーセンでも行ってれば?」


傍から見れば二人の男子が女子をナンパしている形になっている。
しかもなぜか舞台は青学。
リョーマと桜乃はともかく、なぜ切原がこの場にいるのか不思議に思う人はたくさんいるだろう。
切原は当然青学とは違う制服を着ているので、青学の生徒からの視線がとても多かった。


「ねぇ、俺の竜崎を気安く桜乃なんて呼ばないでくれる?」
「誰がお前のなんだよ、桜乃は俺のだろーが!」
「俺だし!」
「俺だろ!」


バカバカしい。
今ここにいる生徒の半分以上がそう思っただろう。
二人の桜乃愛は半端じゃなかったのだ。
二人にとってはこれは戦争のような戦いだが、周りの人たちからしてみれば、ただのレベルが低いケンカ。


「あ、あの…二人とも…」


ここでずっと黙っていた桜乃がようやく口を開いた。
もうそろそろ自分たちが注目を浴びているのが、耐えられなくなったのだろう。


「「何?」」
「うぅ…えっと…」


一気に振り向いた二人に圧倒されて、口ごもってしまった。
なんとかこの場を止めたいが、それをできる人はおそらくいないだろう。





それから15分間、まだこの二人は言い合っていた。
周りはもうほとんど帰り、あまり人通りもなくなった。
そろそろ決着をつけたいと思ったリョーマと切原は桜乃の方を向き、押し寄せてきた。


「「桜乃!/竜崎!」」
「は、はい…」
「「俺たち二人、どっちを選ぶ!?」」
「え、えぇ!?ええっと…」


いきなりこんなことを言われてしまっては、桜乃のことだから混乱するだろう。
案の定桜乃は訳が分からないといった様子で慌てていた。


「もちろん俺だよね?」
「俺だよな!?」
「ええっと…」
「あー!桜乃!こんなところにいたのね!」


リョーマでも、切原でも、桜乃でもない声が響き渡った。
皆一斉に声の主の方へと向いた。


「と、朋ちゃん!」


声の主は、桜乃の大親友の小坂田朋香だった。
なんてナイスなタイミングだろう。桜乃は心の底からホッとした。


「桜乃!今日は弟たちの面倒見なくても良い日だから、一緒にお買いものに行こうよ!」
「お買いもの…?行きたい!」
「じゃ、行こう!桜乃」
「うん!リョーマ君、切原さん、さようなら」
「「…は…?」」


いきなり現れた女に愛しの桜乃を奪われたという大事件が起こった。
ポツンと残されたリョーマと切原は空いた口がふさがらないという状態だった。


「…桜乃は渡さねぇからな」
「…それはこっちのセリフだから」


リョーマは帽子をかぶり直し、何事もなかったように歩き出した。
切原は部活をほったらかしにして来たので、真田に怒られまいと急いで青学をあとにした。


((…はぁ…))


意気投合というのか、二人からため息が出たのは、ほぼ同時だった。




彼女を振り向かせる方法




「あ、これ桜乃に似合うんじゃない?」
「ほ、本当?ありがとう…///」

(この小坂田朋香様から桜乃を奪おうなんて百年早いのよ!)

今回の勝者、桜乃の大親友、小坂田朋香は一人勝ち誇った笑みをこぼしていた。
桜乃もまるでさっきのことは忘れてしまったかのように朋香と楽しんでいた。

(リョーマ様も切原さんも、まだまだですね!)



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