悪魔に溺惑
さて、どうしたものか。

私の目の前には数枚の紙とビデオテープ、そしてフロッピーディスク。

(これで十分、なんだろうけど何だかなぁー、何て言うか…………簡単過ぎてつまんない。)

自分の唇をつぃ、と触る。

(まぁこのままでもいいけど、ちょっと薄いよね。)

私はソファーに座り込み、しばらく考えこむ。

「………………。」
こくん、

(っは、いけない寝てた!)

ソファーの柔らかな感触と窓からの柔らかな陽射しについ眠気を誘われてしまう。

「ん〜…よし!もういいや!」

つまんないことで悩むのは止めた。だって私が楽しくない。

「もう少し待って何もなかったら私が面白くしちゃえばいいんだよね。」

私は自分の享楽の為ならなんだってするんだ。なんだって、ね?




私は気づくと青の世界にいた。

(あれ…私、さっきまでパソコンを………。)

そこで、私はふと思い出した。この青は、彼女の青だ。それに気づいた途端、半分寝ぼけていた頭が一気に覚醒した。

(もしかしたら、彼女に、会える…?)

私を選んでくれた、あの麗人に。

「随分と疲れているみたいだね?大丈夫?」

後ろから掛かった声にすぐさま振り向く。だって私の待ち望んだ、あの声がしたから。

「ぁ…」

やはり目に入ったのは絶対的なあの美。何か言いたいのに、まるで細胞が彼女に陶酔してしまっているかのように上手く動いてくれない。

「君にそんな悲しみは似合わないね。」

まるで私の心を理解し、全てを包みこんでくれるかのような言葉。

「そ、なこと…。」

「あるよ。君に似合うのはもっと別の表情だよ。」

「っ!」

否定しようとした言葉さえ、柔らかな笑みに遮られる。そして返ってきた言葉につい顔が火照る。

「ふふ、いつもはこんなことはしないんだけどね?」

「?」

「だってほら、1人だけしちゃうと不公平でしょう?」

「えっと?」

「私、不公平って嫌いなんだよね。不公平、アンフェア、えこひいき、ね?何だか嫌な響きじゃないかい?」

「あ、あの、えっと?」
彼女の脈絡のない言葉に頭には疑問符ばかりが浮かぶ。

「でもね、今回は、否。君はトクベツに、ね?」

彼女の顔が私に向く。


「ねぇ、欲しいものはある?」

彼女の澄んだ目が私を捕らえた。心臓が、どくり、と跳ねた気がした。

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