![]() | 「夢月さん…、」 廊下を歩いていると誰かに呼び止められた。 「?…あれ、岩渕さん?どうしたの?」 振り向くとそこにいたのは岩渕由奈、クラスメイトの女の子だ。 「あ、あのね?もしかして、ほんとにもしかしてなんだけど、夢月さんって花井さんに苛め、られてたり、しない、かな?」 「え?」 花井さんに苛められてる?何で? 予想外の質問につい反射的に疑問の声が漏れた。 「ぇ、あっちっ違うの!間違えたの!ごめん、気にしないで!」 すると岩渕さんは咄嗟に否定を繰り返し、その場から逃げ出した。 「ねぇ、何でそう思ったの?」 いや、逃げ出そうとした。まぁ、私が手を掴んだからなんだけど。こんな面白そうな話、聞き逃すなんて勿体ない。 「ぅう、…は、離してよぅ!ほんとに間違えただけなの!」 「あんな台詞どこをどうすれば間違うの。 もしかして、花井さんに苛められてるの?」 1番無難で王道な質問をする。と、彼女の肩が跳ねた。 「ち、違う!花井さんには苛められてないの!」 「花井さん“には”?」 「ぁ、」 しまった、という顔をする岩渕さん。何て分かりやすい子なんだろう。 「ねぇ、ちょっとお茶でもしにいかない?ケーキが美味しい店、知ってるんだ。」 何で私、ここにいるんだろう。 「………。」 「ん?ケーキ頼まないの?美味しいよ?」 「い、いや、ぁ、このザッハトルテお願いします…。」 (いやいやいやいや、違うだろ私!何で暢気に注文なんかしてるの!) 目の前には優雅に紅茶を飲む夢月さん。何で私は頭も良くて、美人で優しくて、…テニス部とも仲がいい彼女とお茶してるのだろう。 「ここのザッハトルテ、美味しいんだよ。」 「はぁ、…。」 「で、本題に入らせて貰うね?」 まぁ私が原因なんだけど。彼女もテニス部と、特にレギュラーと仲がいいからそうなんじゃないかと思ったのだ。 「あ、言いたくないことは別に言わなくても大丈夫だからね?困らせたいわけじゃないから。」 こんな時でも私に気を使ってくれるなんて、やっぱり彼女は優しい。誰だってあんなこと言われたら気になるだろうし、根掘り葉掘り聞こうとするだろうのに。 彼女になら…。私はそう考えて、腹をくくった。ちゃんと話をしよう。別に知られても困る話では、ない。…………多分。 |