失楽園の英雄
「夢月〜、高城先生が呼んでたぞ。委員会のことで話があるとかで。」

ようやく来たテスト最終日の放課後、学校が早く終わるのでこの間見つけた洋菓子屋さんにでも寄ってみようか、と考えていると担任にそう言われた。

「、高城先生がですか?」

危ない、ついゆーちゃんだなんて呼びそうになった。

「おう。だから早く行ってこい。」

「はーい。」

ゆーちゃんが私をわざわざ呼び出すなんて珍しい。なんだろうと考えながら鞄を手にゆーちゃんがいるであろう保健室に向かった。

(と言うか、私交通委員なんだけど。)


「失礼しまーす。」

「おせーよ。」

せっかくわざわざ来たのに文句を言われるとは心外だなあ。

「え、これでもすぐ来たんだけとな。え、なにもしかして、私に早く会いたかった?」

「ちげぇよ!にやにやすんな!」

すかさずゆーちゃんは否定したが何だか照れてるようだ。

「ふふ、そういうことにしといたげるよー。」

「うっぜぇ!」

悪態をつくも耳が真っ赤なので全然怖くなかったりする。

「で、どしたの?ゆーちゃんが私をわざわざ呼び出すなんて珍しいよね。」

そう私が言うと、ゆーちゃんは先ほどのげんなりしたような顔とはうってかわり、ニヒルな笑みを浮かべた。

「これを見せてやろうと思って、な。」

そう言いながら数枚の書類のような物を取り出し、私に差し出す。

「?何これ?」

「ま、いいから見てみろって!」

にやにやと笑ったゆーちゃんを見てから、とりあえず書類らしき紙に目を通した。

「……!、何でこんな物を?」

「それ、よく見てみ。書類から何から良くできたダミーだよ。一般人が直接大臣からサイン貰うなんてあるわけねぇし、まず漢字が間違ってるだろ?」

書類の人物を馬鹿にするような口調でゆーちゃんは続ける。

「前、健康診断の時も、どうも書類が嘘臭かったんだ。何故か記入欄が英語でその上筆記体で簡単な単語が並べてあっただけだったし。」

(あぁ、そういえば彼女途中編入だから前の学校からの書類が要ったのか。)

「彼女も大胆なことするね。先生誰か気付いたんじゃ?」

「いや、不思議なことに誰も気付いてねぇ。お前んとこの担任すら、だ。」

「わお、」

「あの女、狐かなんかなんじゃねぇか?気持ち悪い。」

ゆーちゃんは心底嫌った相手に見せるような感情を顔に浮かべた。

「ほんとにね…。でも何で私にこれを?」

「手持ちは多い方がいいだろ?この際俺も乗っかってやるよ。」

「!ふふ、そうだね。わざわざありがと。」

ゆーちゃんは対して知らないはずなのに、相変わらず彼の物事を推し測る能力はすごい。だいたい私がしようとしてることはもう分かっているのだろう。

「もう、ゆーちゃん様々だよ、ほんと。」

「はっ当たり前だろ?
ま、用事はこんだけだ。」

「わざわざほんとにありがとうね?じゃあまた明日。」

ちゅっ

「なっ…!///」

帰る前にゆーちゃんのほっぺにキスを1つ。一応お礼、のつもりだ。金魚のように口をパクパクさせているゆーちゃんを放置して私は保健室を後にした。
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