04
ひやりとした部室のドアノブに触れ回そうとしたとき中から声が聞こえた。

『なぁちょっと聞いてくれよぃ。』

それは私のブン太の、愛しい××の声。

(きたっ!)

そう瞬時に思った。ドアノブから手を離しドアにぺたりと耳をくっつけた。

『美羽のことなんだけどな?ファンクラブの奴らに苛められてるらしいんだよ。』

口元が自然とつり上がる。そうだ、この展開だ。私の望んでいた展開(ストーリー)は。


『なんだと?!美羽を苛めるなどけしからん!』

『確かにいくらファンクラブとはいっても、許せませんね…。』

すぐさまあがる賛同の声に少女は口元の笑みをますます深くなる。

(そう、これで彼らは元通り、ううんそれ以上に私を愛してくれる。そうでしょ?こんなトントン拍子に進むなんてきっと私は神様にも愛されてるっ!)

そう、私の勝利を確信した、

『だろぃ?!いくら何でも…』

『丸井、それは彼女がそう言ったのかい?苛められてる、って。』

はずだった。
冷たい声が中から聞こえるまでは。

『、いや、言っては、ねぇけど…』

『丸井の勘違いかもしれないのに行動を起こすなんて少しずれてない?』

『っでも、もし!』

『たらればで話を進めるなんて関心しないよ。それとも丸井は直接見たのかい?彼女が苛められてるところ。』

呆然としている間に話はどんどん進む、それも思ってもみなかった方向に。

(っなんで?!どうして?!!)

そこで次に聞こえた声に絶望した。

『幸村の言うとおりじゃ。疑わしきは罰せず、その方が楽じゃろ?』

それは私が特に、他のレギュラーなんかのお気に入りレベルなんかではなく恋い焦がれた人の声。

今までは取り返せばいいと思っていた、そんなこと簡単だ、むしろその方がより私を愛してくれる、そう思っていた。それなのに、

―『その方が楽じゃろ?』―

冷たい声音で紡がれたその残酷な台詞。
たった10文字の音の羅列なのに、なんて私の心を抉るのだろうか。私なんて眼中にもない、そんなニュアンスを十分に含んだその音が。

(―あぁ…、私は仲間とも見られていないんだ…。)

頭は混乱にまみれていたにも関わらず意外と機能していたようで、理解したくはなかったその言葉をはじき出す。

(違う、違うよ。本当に苛められてる。無視はされるし、睨まれる。それだけだけど苛められてるんだよ。)

世界は優しくなんてなかった。最初はそれさえも私の生活のスパイスだった。でも、日を追うごとに、「人」だと認識するごとにそのスパイスは私をさす棘へと変わった。

ちくちくちくちくちくちくちく
じくじくじくじくじくじくじく
ぶすぶすぶすぶすぶすぶすぶす
ずきずきずきずきずきずきずき


日を追うごとに痛みはまして、感情を何処かに向けてないと壊れてしまいそうで、消えてしまいそうで、何より怖かった。
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