03
「なぁ、ちょっと聞いてくれよぃ。」

部室で丸井が神妙な声をあげた。普段の彼とは違う様子に部室内にいた者たちは視線を向けた。

「美羽のことなんだけどな?」

話の話題は今ここにはいないマネージャーの少女だ。

「なんかファンクラブの奴らに苛められてるらしいんだよ。」

丸井の顔が曇る。

「なんだと?!美羽を苛めるなどけしからん!」

「確かにいくらファンクラブとはいっても、許せませんね…。」

ファンクラブへの反感の声をあげたのはたった2人。この室内には8人もいるにもかかわらず、だ。

「だろぃ?!いくら何でも…」

「丸井、それは彼女がそう言ったのかい?苛められてる、って。」

賛同を貰えたため、少し声を荒げた丸井の台詞を冷たい声が遮った。

「、いや、言っては、ねぇけど…」

「丸井の勘違いかもしれないのに行動を起こすなんて少しずれてない?」

「っでも、もし!」

「たらればで話を進めるなんて関心しないよ。それとも丸井は直接見たのかい?彼女が苛められてるところ。」

声はあくまで冷静に続けた。「幸村の言うとおりじゃ。疑わしきは罰せず、その方が楽じゃろ?」

「っしかし!」

「ねぇ、真田。」

幸村の真剣な視線が真田を捉える。そして、まるで言い聞かせるかのように言葉を紡いだ。

「俺たちは、王者だ。王者が簡単に動く、なんて愚かな真似をしてはいけない。そうだろ?」

その言葉に誰よりも王者ということに高い誇りを持っている真田は黙りこむしかない。

部屋を一緒沈黙が占拠したあと、1人が口を開いた。

「このまま話をしててもしょうがないだろう。とりあえず早く部活を始めよう。」

壁の花を決め込んでいた柳が発した言葉に何人かは納得いってないようだったが、それでもそれぞれ部活の準備をはじめた。そこら辺は腐っても王者。彼らにとってテニスは何よりも大切なものらしい。

そんな様子の部室の扉一枚隔てたところに影が落ちていた。否、はじめから、居た。丸井が口火を切った時点でその影は扉にぺたりとくっついていたのだ。自分の理想通りの丸井の行動に口元を歪に歪めながら、恍惚の笑みを浮かべ、

―……中の会話を聞くために。
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