![]() | 「ねぇ、×××。 人間ってさ何で夢を見るんだと思う?」 女は静かに目の前の少年に問いかけた。 「夢?」 少年はきょとんとした様子で問いかけを問いかけで返したが、女はさして気にかけた様子もなく続ける。 「そう、夢。簡単には叶わない、むしろ決して叶わないような、そんな夢。たとえ叶わないと分かっていても、それを見るのはどうしてだと思う?」 「うーん………分かんない。」 「それはね、現実に満足してないからなんだよ。人間は元々欲望の塊さ。君の中にも私の中にも眠ってるんだよ。 でも108つも煩悩があるんだもの、そんなの当たり前だよね。人間誰でも願ってる、自分がお金持ちなら、もっと美人なら、飛び抜けた才能があったらってね。どんなに無関心を装った人間でも所詮人間。心のどこかにそんな欲望が眠ってるのさ。だから人は誰しも夢を見る。そしてその夢を叶えるのはー………。」 女はそこで言葉をきる。少年の目に好奇心がキラキラと姿を現した。 「叶えるのは?」 「ふふ、もう家に帰る時間だよ。続きはまた今度。」 「えぇー。」 少年から不満の声が漏れる。しかし彼女はそれをさして気にもとめずに言葉を紡いだ。 「楽しみはとっておいた方がより楽しめるでしょう?ほら今日はお帰り。」 女からのお預けに少年は不満の声を漏らしたものの、女の言う通り帰る準備を始めた。 「絶対今度教えてね?絶対だよ!?」 「うん、絶対。だから今日はもうお帰り。」 ぱたん、と部屋のドアが閉まった。 女は茜色に染まった外を眺めながら呟いた。 「夢を、欲望を叶えるのは―………」 にゃあ、と部屋の隅にいた黒猫が鳴いた。 「誰よりも貪欲な人間さ。まぁもっとも―……… 叶えた後はどうなるか知らないけど、ね」 夕日が沈み、暗くなった室内で先ほどの黒猫の金色の目がキラリ、煌めいた。 back::next |