02
「俺、病気なんだ。」

「……。」

「症状はギラン・バレー症候群に似ているらしいんだけど、まだよく分かってないんだ。」

「、ギラン・バレーっていうと確か特定疾患に認定された指定難病だよね?」

確か、急性・多発性の根神経炎の1つで筋肉を動かす運動神経に支障をきたす病気、だった気がする。

「うん。まだ詳しい検査が必要だけど、多分、入院することに、なると思う。」

無意識だろうか、彼の手が震えている。テニスをする彼にとっては最も苦しい病気だろう。
私は彼の手を握った。

「幸村君私ね、君のプレー大好きなんだ。少しではあるんだけどね、3年間の君たちの努力を、君の頑張りを知ってる。」

幸村君の顔があげられ、私と目が合う。

「どの部活よりも遅くまで部活を頑張って、どの部活よりも早くから練習を始めてた。
私の尊敬だったよ、憧れだった、いや今でもそう。」

ここで一呼吸おく。

「頑張れ、とは言わない、だって君は充分頑張ってるもの。でもね、諦めないで。君の願いを諦めないで。絶対に大丈夫だから。私が言ってもなんの保証にもならないけど、幸村君は大丈夫だから、だから病気なんかに負けないで。」

言葉は口に出すと言霊となり、魂が宿る。そしてそれは、意味を成すものとなる。だからこれもそう。この言葉にも魂が宿った。そしてきっと彼に伝わった。
その証拠に彼の手の震えが止まった。

「それにもし、1人で闘うのが怖いなら私もいるよ。」

「…っ」

ぽろり、と彼の目から透明の雫が落ちる。

「あ、りがとうっ。俺、ずっと病気だって分かって怖かったんだ。もし明日悪化してたらって。もし急に何かあったらって。
でも、こんな弱音誰にも言えなかった。だって俺は部長で、皆を引っ張らなくちゃいけない。でも、でも、ほんとはずっと誰かに大丈夫だって言ってもらいたかった。嘘でもいいからそう言って欲しかったんだ…っ。」

そう言うと、幸村君は今までの不安を全てさらけ出すかのように静かに泣いた。

「よく、頑張ったね、今はもう大丈夫だから。」

私はそんな彼が泣き止むまで傍にいた。

しばらくしてから漸く落ち着いたように見えたとき、幸村君が口を開いた。
「ごめんね、みっともないところ見せて…。でも、おかげで少し前に進める気がするよ。」

そう言って、女の子よりも綺麗な顔で微笑んだ。

「気にしないで。私が勝手にしたことだし、ね?」

「でも、それでも、ありがとう。ほんとに、ほんとにありがとう…!
、それで、その……///」

幸村君が続きを口にしようとした、ちょうどその瞬間。

―ピンポンパンポーン 夢月小夜さん、診察室へお入りください―

「ごめんね、幸村君。続きはまた今度!じゃあ無理しないでね!」

続きが少し気になったけれど、長時間外に立っていたせいか少し熱が上がった気がするので、私は幸村君に別れを告げ診察室へ急いだ。


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