03
放課後になり帰りにコンビニでも寄るかな、と考えながらふらふら歩いていると腰あたりにどすん、と衝撃がきた。

「小夜先輩!!」

目のはしにもじゃもじゃが映る。

「…切原、だっけ…?」

「っす!覚えててくれたんっすね!」

彼の目からキラキラとした光線が出ている気がする。ちょっとまて私。いつの間にこんなになつかれたんだ?

「小夜先輩は今帰りっすか?もし良かったら練習見て行ってくれませんか?!」

「あぁ、ごめんね。今日は用事があるんだ。それに今のテニス部には個人的にあまり魅力は感じないからねー。」

「っ!」

つい何も考えず思ったことを口に出すと切原が息を飲んだのが分かった。

(あー…もしかして花井さん心酔派だったり?失敗したな。)

「先輩もそう思いますか?」

「え?」
  ・
先輩も?

「……最近、部活の先輩達が練習に気合い入ってなくて…。俺一体何を目指していたのかちょっとわかんなくなってるんす…。」

どうやら違ったらしい。切原は正常派らしい。

それにしてもどうして私はこう、彼がしょげてる時に遭遇するのだろうか。垂れてる耳が見えるし。

(はぁ、しかたない。)

「もし何を目指していたのか分かんないんだったらね、ただ純粋に強さを目指せばいいんだよ。純粋なものはね、必ず人の目をひく。人に何かを感じさせる。今ここで君が踏ん張ればきっと君の目指していたものも帰ってくるよ。」

私はそう言ったあと、一呼吸おいて更に続けた。

「君の努力は決して無駄になんてならないから。だってそれは君の中に蓄積していざというときに力をくれる。だからね、もう少し負けないで頑張って。もしどうしても辛くなったらおいで。何度だって私が励ましてあげるよ。」

切原の頭を撫でながら語りかける。何だかこんなことさっきもなかったっけ?

「…っす!俺、頑張ります。それで、あの……」

「ん?」

「辛くなくても、会いに行ってもいいっすか?」

「ふふ、いつでもおいで。」

よっしゃと喜んでいる彼の目には先ほどの弱々しさのかわりに、力強さが滲んでいた。

「ほら、頑張っておいで。」

「はいっ!あ、先輩俺のことは赤也って呼んでくださいね!じゃさようなら!!」

「分かったよ、ばいばい。」

何だか台風みたいに去って行った彼を見送り、私も帰路につく。


(これで正常派は仁王と切はじゃなかった赤也の二人かな?あとは黒い人と柳?だっけ心酔派って確定してないの。)

仁王の言葉を思い出しながら、彼の口から出てこなかった名前をあげてみる。どちらに転ぶか。ま、どちらでも私が見てて愉快ならいいんだけど。

そんなことを考えながらテニスコートの外れまで歩くとフェンスの外側に女の子が数人集まって何かを話しているようなのが見えた。

(ええと、鈴木さんに柏崎さんに…結城さん?と高梨さん、かな?
この面子ってことは―……。
ふふ、もしかしなくてもそういうことなのかな?面白くなるといいなー。)

ゆっくりと、けれど着実に訪れるその変化のこれからを思い、私は足取り軽く家への道のりを歩いた。
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