03-01  


「それじゃあ、またお薬お送りいたしますね。」
「ありがとうございます。…はなれるのがおしいですね。」
「え?」
「いえ、それではまたきます。」

上杉謙信は何かぽつりと呟いたかと思うと、そこらへんの女性が裸足で逃げ出すぐらいの綺麗な笑顔を向けてくださった。
「(なんだか女として切ない…!)かすがさんも、また。」
「あぁまたな。…そ、その、体に気を付けるんだぞ!っお前の心配をしたわけではなくてだな!…そうだっ!あ、あくまで薬の為だからな!」

これなんてツンデレ?

「ふふ、ありがとうございます。かすがさんもお体気を付けてくださいね。」

そして、ようやく二人が帰った。自分から泊まるか言い出したものの、

「すっっっっごい緊張したぁ……!」

なんだか気が抜けて地面にへたりこんでしまった。

「っ遥奈ちゃん!?どうしたんだい?!」
「あ、お美代さん。はは、なんだか気が抜けちゃって。」

情けないところを見られてしまい、つい苦笑いがもれる。

「なんだいそりゃあ…。心配して損したじゃないか!」

お美代さんが呆れたように笑う。

「はは、すいません…。ところで、今日はどうしたんですか?」

立ち上がって服についた土埃を払いつつ、お美代さんに話かけた。

「そうそう!旦那の薬がきれてねぇ。あんたに作って貰おうと思ってさ。それとうちの牛からとれた牛乳と鶏の生んだ卵、持ってきたんだよ。良かったらお食べ。」
「わわっありがとうございます!スッゴく助かります!お薬今すぐつくりますから、中で待っててくださいね!」

お美代さんの思わぬ差し入れに自然と私のテンションが上がる。

「それにしてもあんたの作る薬は良く効くわぁ。きっと茂さんの血を良くひいたんだねぇ。」

茂さん、と言うのは私の父親の名前だ。結構優秀な薬師だったらしく、たくさん彼の薬の常連さんがいた。あまり父親だという感覚はないが、たまにお客さんの話に出てくるのだ。

「ありがとうございます!っと完成です!1ヶ月分ですので、これが無くなったら旦那さんに一度診察しなおすので来るように、とお伝えください。」いろいろと話をしている間に薬が出来上がった。

「ありがとね、これお代だよ。」
「あ!牛乳と卵くださったし半額でいいですよ!」

「あらそうかい?じゃあお言葉に甘えるとするかね。あぁそうだ!慎があんたによろしくって言ってたんだ。」

「は、はぁ。わかりました。けどなんで慎さんが?私何かしたっけ…?」

慎というのはお美代さんの息子さんだ。確か今年で18才になる優しそうな青年で、何度か会った事がある。

「はぁ、これじゃあ先が思いやられるね…。」
「?」
「まぁ、いいや。じゃあまた来るよ。」
「はい、じゃあ1ヶ月後に。まいどありー。」

お美代さんを見送り、確か砂糖と小麦粉は何故か常に家にあるし(というか調味料類は薬草のように何故か少したてばもとに戻る。)、牛乳でバターでも作ってマドレーヌでも作ろうかなぁと考える。いやいやシフォンケーキでもいいなぁ……。

「慎ってだぁれ?」

「っ??!!さ、佐助さん!?驚かさないでくださいよ!」

あれから彼はうちの常連さんになり大分彼とは打ち解けたが、この登場は未だに慣れない。絶対寿命縮んだ…!と激しく打つ心臓を押さえた。

「あはーごめんね。
で、慎って誰なの?」
「(絶対悪いと思ってないよこの人…!)さっきの女性の息子さんですよ。優しそうないい人なんですよー。」
「へぇ…。もしかして遥奈ちゃんのいい人?」
「違いますよ!いい人もなにもまだ何回かしか会ったことないですし。それに好きな人もいないのにいい人だなんて…!」

何故か目がどことなく据わっている佐助さんの口からとんでもない台詞が出る。

「なぁーんだ!そっかそっか!」
「?って言うか盗み聞きなんて趣味悪いですよ!もう!」
「ごめんごめん。(てか、俺様何でちょっといらっとしたの?)」

何故か佐助さんが微妙な顔をした。まぁ佐助さんも職業上いろいろとあるのかもしれない。

「あ、そうだ!今日俺様薬草買おうと思ってきたんだよ!」

忘れるところだったーと先程の顔はどこへやら、ヘラリと笑った。

「はぁ、もうなんかもういいです。で、何が御入り用で?」
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