01

薄暗い会場の壇上を暖かな色のライトが照らす。初老の男性が壇上に上がり、マイクに向かってこう言った。
「これより第xx回関東英語弁論大会を開催します。」



「はぁ、…」

(何でこんなことになっちゃったんだろう…。)

あれから数日後に行われた弁論大会で金賞を取ってしまった私は今神奈川代表として東京の会場にいる。

そりゃ一応“前”は帰国子女だったから英語はむしろ母国語だ。
目立つのはいやだいやだと思いながらも私がこんなところに来ているのも――…

「立海大付属中学の苗字さん、順番次なので舞台袖に来てください。」

「――はい。」

(未だ諦めきれずに“   ”を探しているからなんだろう――…。)

「次は神奈川県代表立海大付属中学校、苗字名前さんです。タイトルは「past tale」。」

私はステージ中央に立ち、一礼した。そして口を開いた。

「Long,long years ago――…。」


side ???


氷帝の代表に選ばれ、もちろん東京代表に選ばれた俺は関東大会の会場に来ていた。


自分の番が来るまで、席に座り他の代表者の演説を聞いていたが、やはり中学生と言うべきか、基本通りの発音を努めているが、あれは演説ではなくつまらない演技だ。台本通りのことしかできず、伝わるものがない。
俺は所詮日本のレベルか、と半ば学ぶものがなにもないと諦めていた。が、ある演説者に目を奪われた。

光に照らされた烏の濡れ羽のように艶やかな髪が、恭しくお辞儀をしたときに肩から零れる。その仕草に視線を奪われた俺は、次には聴覚も奪われることになる。


『Long,long years ago――…』

流れるような演説だった。それでいて圧倒的に記憶に残る美しい言い回しにその演説の内容。

何てことのない、小さな時の失敗の記憶を話しているだけなのにどこか感じる悲痛な感情はなんだ。

彼女が話し終わっても色濃く残る余韻は会場全体を包み込んでいた。


(っくそ、いねぇ…!)

あのあと演説をこなした俺は彼女、苗字名前を探していた。会場を隅から周り、舞台袖を確認するも影すら見つからない。

(ちっ、携帯落としたのか。)

携帯で時間を確認しようとしてポケットに手を入れたところで、携帯をどこかに忘れたことに気がついた。

彼女は見つからないし携帯は落とすしで、俺のイライラは募る一方だ。

(まずは携帯か、面倒くせぇな…)

とりあえず座っていた席に戻ろうとしたところで、声を掛けられた。

「あの、跡部君?」

即座に反応した聴覚に反射のように体が振り向いた。

「間違えたかと思っちゃった。これ、係りの人が渡してくれって。」

彼女が、苗字が、そう言って落とした俺の携帯を差し出していた。

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