1

「ねぇねぇ、名前ちゃん。この問題分かる?」

数学の授業が終わると、数人の女の子が私の方に教科書を持ってやって来た。もうすぐテストがあるからだろうか。

「この問題はね、先に4xをこっちに移行してから計算すれば簡単だよ。」
「あっほんとだっ!ありがとう!」

一応中学と行っても付属なので、普通の中学より授業の進度も早いしレベルも高い。まぁ高校生だった私が言えることじゃないかもしれないけれど。

「あっあと、ここもいい?」
「あぁ、ここはねー…」



次の授業が自習になってくれて少し助かった。休み時間中彼女たちは離してくれなかったのだ。
こっそりと、高校生用の問題集を開け解こうとしたが横から小さな唸り声が聞こえる。
見てみると幸村君が方程式とにらめっこをしている。少しややこしい問題だ。中学生からすると。

「そこはね、8xを6xと2xに分けてから因数分解するんだよ。」
「えっ!あっそうか!」

もともと彼は頭がいいのだろう。私の一言だけですぐに解き終わってしまった。

「ありがとう、名前
どうしても分からなかったんだ。」

ふわりとした笑顔を向ける幸村君に、生まれてくる性別を間違ったんじゃ、という失礼な思いが浮かんでしまった。

「こっちこそ、ごめんね。つい口だしちゃって。」
「ううん、助かったよ。それにしても名前は凄いなぁ。こんな問題さらさら解くなんて。」

幸村君のその言葉に、記憶がフラッシュバックする。

ー「名前は凄いなぁ。こんなに難しそうな問題さらりと解くんだもんなー。」ー

(あぁ、あの子にも言われたんだ。この言葉。……何かのきっかけがなければ思い出せないなんて、私…、)

「名前?」
「え、あぁ、うん。数学だけは得意なんだ。」
「羨ましいなぁ。」
「でも幸村君だって賢いじゃない。いつも当てられても簡単に答えちゃうし。」
「そ、そんなことないよ。それにそれぐらい名前もじゃないか。」
「……ふふ、何で私たちこんなにお互い褒め合ってるんだろうね。」
「……ぷっ、あはは、確かにね。」


太陽を忘れた月
(忘れたくないのに)(日を追うごとに)(私の中の貴方が薄れていってしまう)

list 
text(8/16) chapter(1/1)
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -