星に願う

気づいたこと


こんこん、とシンのいる紫獅塔の部屋の扉をノックする。中から彼の声が聞こえる。

「シン、今少しいい?」
「あぁ、どうした?」

言うべきことを言うために、来たはずだ。ぎゅっと拳を握りしめる。逃げないって決めたんだ。

「あのね、私…旅に、出ようと思うの。」
「…旅に?」

シンの目が見えない。でも彼の傍にいると彼の輝きが強すぎて、自分の道が見えなくなるような気がして。

「この間、ジュダルに、「マギ」に会ったの。」
「!やはりあの時………」
「うん、……それでその時言われたの、「俺を選べ」って。そう言われたとき、あぁ私選ばなきゃいけないんだって思った。きっとこれが私の役目の1つなんだって漠然と感じたの。」

きっとシンは知ってたんじゃないかな、なんて思ってみるけど、それを聞く勇気はない。

「それでね、同時に何も知らない私は選んじゃいけないとも思った。」

そう、私はその選択をするにはあまりにも無知だ。確かに、この身に宿る姫としての力のお陰で沢山のことを“見た”。けれど、それは私が直に“知った”ことじゃない。だから私は知らなければならない。ちゃんと自分で見て、触れて、感じなきゃならない、そう思う。前の私ならきっと逃げてた。知ることは苦しいことだから。でも…

ぐっと拳に力を込めてシンの瞳を見る。

「だから、旅に出ようと思う。きっとここにいても、私の役目は果たせる。でも、それは逃げなんだ。私は、逃げたくない。」

知ることで私が誰かを、何かを救う事が出来るなら、知りたい。

「…………。」
「駄目、かな。」
「…行ってこい。」
「、ほんと?」
「あぁ。俺には自ら運命と向き合う人間を邪魔するなんてことはできないからな。」

シンは薄く笑った。

「ありがとう。シン。」
「一杯知って経験して、世界を見てこい、ユナ」
「っうん!」

頭に乗せられた手はとても暖かくて大きくて、一人じゃないと言われているようで、心強かった。

「ただし、条件がある!」
「条件…?」
「あぁ。これを守れないなら旅にはやれないな。」

真剣な彼の顔にごくり、と生唾を呑み込んだ。

「その条件とは……」
「条件とは…?」
「着いた国々で連絡をいれること!」
「え?」

ふっとシンが柔らかく笑う。

「俺でもジャーファルでも他の八人将でもいい。だから必ず連絡をいれろ。……守れるか?」
「っうん!守れる、絶対連絡する…っ」
「…ユナ、お前はもう俺の国の国民だ。いつでも帰ってこい。」

ほんとに、私が最初に出会えた王がこの人で良かったと思う。

例えそこに―――…どんな感情が入り交じっていたとしても。

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