星に願う

君に捧げる歌


大きなガラス扉を開けて、バルコニーのようなところへと出る。風が私の髪を優しくすく。
少し火照った体には、心地の良いひんやりとした風だ。そよりと木々の葉が視界の端で揺れる。

スパルトスさんのお陰で自分のするべきことがなんなのか、漠然とだけど分かった気がする。どうしてアークが私を降ろす地としてこの国を選んだのかも。

私は周りに誰もいないかを確かめてから、音楽を紡ぐ。アークが教えてくれたオラトリオ。聖譚曲とも呼ばれるそれは神様へ捧げる歌だ、と教えてくれたのはいつだったか。

こっちの世界に来てまだ間もないけれど、今まで経験し得なかったことをいくつも経験して、その中には苦しいことも楽しいこともあった。そしてそれを通して人の心にも少しだけれど触れて、世界はまだまだ広いのだということも知った。まだまだ私は無知で幼いのだということも思い知らされたと同時にもっと世界を人を知らなくちゃならないとも思った。


ねぇ、アーク。やっぱりまだ自分の役割とかについてはっきりとは分からないけど、今出来ることから、逃げずに精一杯頑張るよ。貴方は神様ではないけれどこの決意が少しでも貴方に届くよう、貴方の教えてくれたこの歌を心を込めて歌うよ。







「はぁ、全くまたシンはサボって…!」

シンの侍官から彼がいなくなったと報告を受けた私は廊下を歩いていた。今月はこれで7度目だとイライラとしていた私の耳に微かな声が届き、同時に光る何かが目に入った。

「これは…ルフ?」

本来自分には見えないはずのそれに導かれるようにして、足は自然と声の聞こえる方へと向かっていた。

「…、」

微かな声の正体は歌声だった。その透き通るような声の持ち主がいるだろうバルコニーに目をやった瞬間、
ど く り 
そう、自分の心臓が跳ねたような感覚が身体を走った。そこにはルフたちに包まれ、まるで祈るかのように歌うユナがいて。
どこか神聖な儀式のようなその光景を目の当たりにした私は、確かに彼女は“ソロモンの姫”なのだと思うと同時に、あの華奢な両肩にそんな重圧が課せられているのかと、胸が苦しくなった。
そして――その上。この間からいやに自分の中で燻る、彼女を守りたいという感情がまるで堰を切ったかのようにせり上がってきて。あの頼りない両肩を抱き寄せて全てから守ってやりたいと、そう思った。
……いや、それだけではない。出来ることなら、自分だけに笑いかけてくれるようこの腕の中に閉じ込めてしまいたい、とも思ってしまった。


「…、そんなことを考えるなんて、私は、」

馬鹿か、そう口に出した声は苦しげに掠れていて。

自分はシンドリアの政務官だ、といくら言い聞かせても消えない、まるで身を焦がすかのようなこの鮮烈な感情は、誰かの言っていた恋慕という感情に、とてもよく似ている。

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